長湯をしたり、洗いものを長時間したりすれば、指先がしわしわになる。あれはなぜか? そんなものは、指の皮が水を吸ってふやけているだけ。そう考えて何の疑問も持たなかったが、どうも違うらしい ▼英生物学誌に昨年発表された論文によると、あのしわは自律神経の働きで指先の血管がぎゅっと締まって皮膚の下の組織が縮み、皮がたるんで起きる現象。では、何のためにそんな反応が起きるのか ▼英国の研究チームは、ガラス玉を指でつまみ移す実験をした。乾いた玉なら乾いた手の方が効率がいいが、濡(ぬ)れた玉だと、水に浸してしわが寄った指の方が効率がいいと分かった ▼つまり水に浸ってできた手や足の指先のしわは、濡れたところでの滑り止め。まるで滑りやすい道に乗り入れた途端、ノーマルタイヤからスタッドレスタイヤに履き替えるような機能が、私たちの手足には備わっているらしい ▼無意味そうなしわに潜む驚きの働きだが、「無用の長物」の代表選手とされてきた盲腸にも立派な働きがあるという。大阪大学の竹田潔教授らが、マウスを使った実験で調べたところ、盲腸から細く伸びる虫垂が、腸内の細菌を健やかに活動させる仕事を担うと分かったそうだ ▼役に立たなそうなものに、実はしごく大事な役目が潜む。これこそ「無用の用」。「盲腸のような…」という比喩は、お役御免となりそうだ。