先日7/1にお伝えした「JSCが国立競技場周辺の野宿生活者の排除に動き出しました」 の続報が届きました。
以下、国立競技場周辺で暮らす野宿生活者を応援する有志からの報告です。
※写真は、説明会が行われた7/9の国立競技場
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独立行政法人・日本スポーツ振興センター(JSC)より、新国立競技場建設工事(2015年10月着工予定)にともなう下水管工事の説明会のようなものを設定したいという連絡があったため、7月9日(水)夜、国立競技場周辺で暮らす野宿生活者有志、支援者有志、総勢約30名で、とりあえず話をしに行くことにしました。
場所は5/31の「SAYONARA国立」イベント後、閉鎖されている国立競技場の1階ゲートの庇(ひさし)の下。設備の取り外しなどはすでに始まっており、仮囲いで囲まれた吹きさらしの一角で、19時から始まりました。
JSC側からは、新国立競技場設置本部 総務部運営調整課長・高崎氏、新国立競技場設置本部 総務部長・斎藤氏他、発注担当者、設計担当者の役職者を含み約10名。設計会社から4名の総勢14、5名が参加。前半は高崎課長、後半は齋藤部長が説明に当たりました。
JSC側は、最初から、前回7/1と同じ野宿の方の小屋のある場所がスッポリ工事範囲に入った図面を貼り出し、「このまま工事を進めたい」と臆面もなく話を始めました。前回のやりとりの中で、これは都有地で暮らす方々の生活を壊す工事であり、再検討するよう伝えてありましたが、「変更はない」「移転をお願いしたい」と繰り返すばかり。
「移転というがどこに行けばいいのか?」と訊くと、「東京都に聞かないとわからない、私たち(JSC)ではわからない」と、またしてもまったく「説明」になっていません。先行きについてわからないままの通告は「追い出し」「強制排除」ではないかと指摘しました。
新国立競技場新設にともなう下水管工事については、昨年2013年10月末に明らかになって以来、何度も当事者と共にJSC本部事務所ビルに足を運び、説明を求めてきました。その都度、JSC高崎氏は「東京都と調整中で詳しいことは話せない」とはぐらかしてきました。
今回、交渉の場に参加したJSC設計担当者・コミナト氏に、「下水管工事はいつ決まっていたのか」と聞くと、昨年春にはJSCで計画されており、野宿の小屋があることも知っていたと答えました。1年以上の期間があったにも関わらず、工事内容を隠して計画を進め、工事発注直前に立ち退き勧告をするのは、手順がおかしいと指摘しました。
充分な話し合いの期間を取り、当事者の話を聴き、生活への支障が最小限におさまる工事方法を調整していき、工事の影響を受ける当事者が納得いく見通し・先行きが立ってから工事発注に移るのが、あるべき説明会の姿・手順ではないかと考えます。
また図面の内容について、昨年11月の段階でのJSC側の説明では、小屋から離れた箇所から下水道を分岐し、新設する計画であったのが、7/1現地説明の際に示された図面では、わざわざ小屋の真下から下水道を分岐させる計画に、変更になっていました。
さらに、下水道を新設する箇所からは外れている別の小屋も、資材置き場として工事範囲内とされていました。つまり、ほとんどの小屋の撤去を前提とした図面を出してきました。
私たちは7/1の段階で、この計画はここに暮らす人の生活を壊すものであり、以前の排除の必要のない計画に戻すこともあり得るのではないかと、見直しを求めました。にもかかわらずJSCは「変更はない」、さらに昨年11月段階の小屋に影響のない計画についてまで、1週間前に認めたにも関わらず「そんな発言はなかった」と言い出す始末。(こちらは、映像と音声で記録しているのですが・・・)
下水管の分岐地点が小屋の真下に変更された、その根拠について、設計担当のコミナト氏は、「コストが削減できるので、その場所以外あり得ない」と言い切りました。野宿当事者の小屋に影響が予想されることについては、検討はしたが「日程大事」「コスト重視」で考慮に入れなかったと回答しました。
資材置き場の場所選定についても、他に空いている場所はいくらでもあるではないかと追及すると、現在の計画の(小屋のある)場所以外への変更はできない旨、東京都からの指導が入ったとのことで、都の関与があったことが明らかになりました(都有地での工事なので東京都の認可が必要)。
工事工程に関しても、通常の下水道工事が住民の日常生活に支障のないようエリアごとに少しづつ工事を進めていくのに対し、JSCの計画ではすべての工事範囲を全面封鎖して行うとのこと。国家プロジェクトのラグビーW杯、五輪に間に合わすためには周辺住民への配慮は必要ないと暗に言っているように感じました。
現場仕事が長く、JSCの職員なんかよりよっぽど工事のことに詳しい野宿の仲間たちからは、「この工事のやり方おかしくねえか?」「ここはこうした方がいいんじゃないの?」などなどとツッコミ続出。
21時を回るあたりで、数々の問題点が指摘され話がまだ継続中なのにも関わらず、JSC斎藤部長は急に「説明はさせてもらいました。工事を始めさせてもらいます。終了します。今後の話し合いの予定はありません。ありがとうございました」と一方的に閉会を宣言、立ち去ろうとしました。
それに対し、会場から「それはあなた(斎藤部長)の決定か?JSCが引き金で世界的スポーツイベントの2020東京オリンピックで強制排除をすると宣言したことになるよ。全世界にこのことが知れ渡るけど問題ないんやね?」との指摘が飛びました。
ここで、会場を後にしかかっていた斎藤部長以下JSC役職者の足が止まり、そのまま会場脇で密談を開始。
15分程待たされた後、交渉は再開されました。しかし相変わらずJSC側は、どうしても翌日7/10に入札公募公告をしたいと同じ内容を繰り返すのみです。
工事の説明会を経なければ入札公募公告はできないようで、住んでいる人の先行きについては「わからない」「知らない」と説明できていないことは認めているにもかかわらず、「工事に関する説明はさせてもらった」「住んでいる人の生活に関わることは別途話し合いを持つ。工事は始めさせてもらいたい(工事公告する)」とオウムのようにリピートし続けます。
「これでは追い出しのための工事ではないか」とそのたびに紛糾。JSC側は「5分休憩を下さい」「2分休憩を下さい」と話を中断。携帯電話でどこかと連絡を取っては打ち合わせ、を繰り返しました。
数々の排除と粘り強く抗ってきた渋谷からの応援の面々は床にどっしり座り、横になり、 なんかもぐもぐ食べながら「こっちは朝までやっても構わないんだぞ」と声を上げます。途中で雷鳴がとどろき、ゲリラ豪雨、やがてそれもすっかりやみました。
交渉の過程で、今回の下水管工事の前提についても確認しました。
2019ラグビーW杯、2020東京五輪に向け新国立競技場への建て替え計画が進んでおり、現在の下水道は巨大化する競技場の敷地内に入ってしまっているため、下水道を移動して、新たに敷き直す必要があるとJSCは明言しました。つまり新国立競技場計画が見直され、改修工事に留まるか、現状の敷地内で足りる計画になるならば、連動して下水管工事も必要がなくなるということです(その後に予定されている埋蔵文化財調査の掘り返し工事も同様です)。
建築家ザハ・ハディドのデザインによる新国立競技場建設計画には、現在多方面から反対の声が上がっており、大手マスメディア各社も見直しについて言及し始めています(※)。
2000億円近い膨大な費用(既に予算上限超過の疑い)に、デザインコンペの不透明な選考⇒決定過程、劣化した設計、ずさんな工事計画、そしてJSCの強引なやり方と、問題が噴出している状態です。
しかしJSCは、何が何でも2019年ラグビーワールドカップに間に合わさなければと、批判の声に耳を貸すことなく、新国立競技場建設に突き進んでいます。「もう時間がない」と突き飛ばされようとしているのが、周辺で野宿生活をされる方々であり、また都営霞ヶ丘アパートに住む方々です。裏で糸を引きJSCを突き動かしているのが、ラグビーW杯招致で動いた政治家の面子でしょう(ちなみに、会場要件に8万席の必要はありません)。
今回のJSCの対応は、どんなに言い訳しようとも、「スポーツイベントを理由とした強制排除」にあたる旨を重ねて申し入れました。
さらに時計の針は進み23時半をまわり、開始から4時間半が経過しました。
JSCは、数々の指摘を受け、自分たちの説明が不充分であること、多くの問題が今回の工事計画の中にあること、そして「人権を無視した工事になる」ことを認めながらも、「仕方ない」と開き直りつづけました。一方的な通告であっても、一定時間の会合を持ったことで、説明責任を果たしたのだと言わんばかり。どんなに異論が噴出しようとも、彼らの言うところの「説明会」を持ったという事実があれば、大義名分が立つという態度が露骨でした。
最終的に、斎藤部長、高崎課長から、
「工事公告をかけさせてもらうが、住んでいる人がいるうちは工事はできない、工事をやらない」
「7月中に再度、話し合いの場を設定するよう努力する」
「住んでいる人が納得できる話になるまでは、入札後業者が決まっても工事に入らない」
との発言があり、話し合いは次回へ延長となりました。
この翌日、7月10日(木)、JSCによる入札公募公告が予告通り出されました。(業者決定の開札は8月7日。)
しかし、公告をもって住民は了解済みなどと思わないでいただきたい。入札に参加する企業には、工事エリアに現に暮らしている人が何人もいること、そのさいJSCは「工事公告をかけさせてもらうが、住んでいる人がいるうちは工事はできない、やらない」と明言していることを、しっかりと認識していただきたいと思います。
JSCはこれまでの数々の話し合いの中で、確認を取った約束事を、知らぬ存じぬで臆面もなく、何度も反故にしてきた経緯があります。8月に着工が予定されている下水管工事において、JSCが明言した「小屋があるうちは工事はやらない」「住んでいる人が納得できる話になるまでは、工事に入らない」という確認事項が守られているか、引き続きご注目をよろしくお願いします。
7月26日
国立競技場周辺で暮らす野宿生活者を応援する有志
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JSCによる追い出し工事計画については7/21の東京新聞「こちら特報部」で都営霞ヶ丘アパートの立ち退き・取り壊し計画と併せ報道されました!
⇒東京新聞:「国立」建て替え問題 五輪の理念どこへ 繰り返される弱者排除:特報(TOKYO Web)
⇒稲葉剛公式サイト » [2014年7月21日]東京新聞:国立競技場建て替え問題立ち退き迫られるアパート住民
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※各新聞社による新国立競技場をめぐる社説
■「東京新聞」7/22「社説」──「五輪会場見直し モッタイナイの精神で」
■「日本経済新聞」6/30「社説」──『「負の遺産」にならない五輪計画に改めよ 』
■「京都新聞」6/4「社説」──「新国立競技場成熟国家に似合わない」
■「毎日新聞」6/1「社説」──「新国立競技場一体いくらかかるのか」
■「日本経済新聞」6/1「社説」──「ゴール急ぐな新競技場づくり」
■「朝日新聞」5/25「社説」──「国立競技場 立ち止まり議論し直せ」
■「毎日新聞」12/23「社説」──「新国立競技場 五輪の後を考えよう」
■「愛媛新聞」6/1「社説」──「新国立競技場 未来への想像力持って再考を」
※リンク切れのため「社説にツッCOM」(http://3coco.org/a/)掲載の該当記事へリンク
27 July, 2014
9 years ago
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