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日本でも木の柱や畳が息をしている部屋に入るとその空間が呼吸に馴染むように、石や土でできた壁や塀の立ち並ぶ町を歩いているとからだがやわらかになる。
思いおもいに塗られた窓枠、ひとつひとつ形の違うドア、歪みつつ均衡を保っている屋根瓦。
日本は植物が豊富だと言われるけれど、まだフランスの植生が珍しくて仕方がない。
あちこちにわさわさ揺れ落ちる紫の花とか、8階建てくらいの高さにしゅっと伸びた杉みたいな樹とか、いつまでも5月の芽吹きたてみたいな色をした葉がきらきら茂っているのとか、大きな種をつけた芥子、忙しく蜂が飛び交うさまざまな色の花。

何年も前だけれど2回目にヨーロッパに行った時、住むところも寄る人もいなくて、ただ自分がどうしてもそこで踊りたい場所からのオーディションの報せだけを頼りにオランダに行って、しかも到着の日付を間違えてホテルを予約してなかったり迷子になったりしたものだから、不安な気持ちばかりを抱えてで町を歩いた時に、ゴッホの絵にある空とか大地の色のことがやっと分かった。
日本でゴッホの絵を見た時には、鮮やかな色使いがただ絵の中のものに見えていたんだけれど、実際にそこに広がる色と光を混ぜたら、たしかにああいう風にしてキャンバスに落としたいよなあ、と思って。

あの有名なオーヴェルの教会を見て、裏手に出ると、麦畑は地平線の向こうまで続いているみたいに見えてくらくらした。ポピーとか黄色い花が時々混ざっていて果てしもなく深くて、まだわたしは自分がこの場所にほんとうにいる、ということが馴染んでいない感じがする。
ゴッホとテオのお墓は仲良く並んでいて、大きなハイビスカスがそれをつないで、マルハナバチが忙しく出入りしていた。
 
  1. aotora reblogged this from morutan