演出の魔術師を支える音のマジック Martin CDD5がサポート
日本の小劇場全盛期にはオンシアター自由劇場を率いてその流れを牽引し、その後は文化村シアターコクーンの初代芸術監督として日本の舞台芸術の発展に多大なる貢献をし、現在もなお新作の演出、創作にと活躍する演出家、串田和美氏による「K.TEMPEST」(原作はW.シェイクスピアによる「テンペスト」)が2014年の初演に続き、新たなメンバーを加えてパワーアップした形で劇場に戻ってきました。副題に「串田版・シェイクスピア幻想音楽劇 記憶の嵐が巻き起こる」と記された本作では、弊社で取扱いしている音響機器も利用されました。独特の演劇空間に用意された音響システムについて、音響プランを担当なさった(株)ステージオフィスの市來氏にKAAT神奈川芸術劇場でお話しを伺いました。
今回の「K.テンペスト」公演は、初日のまつもと市民芸術館の他に、長野県内で3か所、また神奈川県でも公演が行われました。5か所の会場では、いずれも中央にある四角形のアクティングスペースを四方に階段状に取り囲む形で客席が設けられる、仮設の演劇空間が劇場や、スタジオ内に設置され、音響も独特の形でデザインされました。20名近い出演者は、マイクを使わずに肉声でセリフを発し、時に歌い、楽器の演奏を行います。アクティングエリアを自在に動きながら、時には客席にも紛れこんだりもする演出を可能にしたのが、市來氏によるプランでした。
用意されたのは、MKH416のガンマイク、d&bのT10、そしてMAのCDD5が各4つずつのみです。これらの機器を階段状に設置された客席の一番後ろに、仮の壁があると想定して一定の角度に基づいて設置しました。具体的には、Aというマイクで拾った音を水平方向約45°の位置にリギングされたAのT10スピーカーから拡声させるもので、これを4セット、各方向に1セットずつ設置しました。CDD5のスピーカーも各方向に1つずつ設置され、リバーブを足す役割として利用されました。
このセッティングにより、360°に配置された客席のどこにいてもセリフは同じように聞くことができ、物語において重要な役割をもつ歌や生演奏の音楽も申し分なく届けられる、という仕組みになっています。客席で観ている分には、ステージからセリフも音楽も聴こえてくるように錯覚してしまうかもしれないくらい、さり気なさと自然なサウンド感のある公演でした。特に、板付きから始まるオープニングで、ざわざわとした劇場全体の雰囲気の中から、徐々にステージで役者の方々が発するセリフが際立って聴こえるようになる演出や、クライマックスでの合唱の響きは鳥肌が立つほど美しかったです。
毎公演、会場では限られた時間で設営と撤収をしなければならないという状況下において、今回のスピーカーはどちらもクランプを利用して簡単に設置できたのも重宝したそうです。馴染みのある音響機器でも、アイディアと工夫次第で様々な可能性があることを気づかされた公演でもありました。
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