8月24日、パラリンピック開会式。開会に抗議する人々の声を国立競技場から遠ざけるため、大量の警察官が暴力的な過剰警備を敷く中、Aさんは不当逮捕された。8月27日には裁判所により勾留が決定され、今も赤坂署に身柄を拘束されたままだ。
そのAさんの勾留理由開示公判が9月1日開かれた。傍聴席はたった10席。傍聴券の抽選を待つ間、大柄な裁判所職員が私たちの胸元をジロジロと見ながらTシャツに書かれている文言をチェックし、反五輪Tシャツを着ている仲間にはそれを覆うように指示してくる。気持ち悪い。抽選に当たった人は裁判所の中へ、抽選に外れた人は地裁前で抗議アピールを続けた。
公判が開かれるのは427号法廷で、警備法廷として知られる。4階のエレベーターを降りると、10名の傍聴者に対して2倍3倍の人数の廷吏や警備員が待ち構えている。入廷する前に手荷物を一時没収され、金属探知機で全身をチェックされる。通常の法廷ではあり得ない過剰な警備体制だ。
デモや抗議行動での弾圧事件はこの警備法廷で審理されることが多い。これは、公正な判断をすべき裁判所そして裁判官が、既に被弾圧者や傍聴者に対して予断と偏見を持って敵視していることの現れだ。このことは、後の意見陳述でも弁護士の方が不当であると訴えている。
「私が勾留したわけではないので・・・」
さて、Aさんの勾留を請求したのは東京地裁刑事第16部秋田志保裁判官。しかし、今日の公判を担当したのは別人の刑事第14部津島享子裁判官。いやいや、勾留を請求した裁判官が出て来て理由を明らかにしなければおかしいのではないか、と開廷早々弁護士が追及した。
しばらく丁々発止のやり取りが続いたものの、津島裁判官は「秋田が出てくることはありません」「これ以上議論するつもりはございません」と強硬に審理を進行。
しかし裁判も中盤に入り、勾留理由について弁護士からの鋭い質問が続くとついには「私が勾留請求したわけではないので…」
は?何それ!だから秋田を出せと言ってるのに!勾留請求した裁判官とは違う裁判官が、勾留の理由を推測しながら説明する勾留理由開示裁判なんて茶番だ!
そもそも嫌疑が不存在。でっち上げ逮捕だ!
裁判所は、被害者と称する機動隊員の供述を証拠として示している。機動隊員の供述では、Aさんが「『仲間に触るな』等と叫びながら、いずれかの足で一発蹴る暴行を加えた」という。津島裁判官は、これを事実を疎明するものとして十分だと言った。
「いずれかの足で」!?大量の警察官と抗議者がごった返す大混乱の外苑前で、右足か左足かも特定できないのに、なぜ、故意に蹴ったと認定できるのか?もともとAさんは蹴ったことを認めていない。不当逮捕当日の警察発表に基づく報道は嘘だった!そもそも、嫌疑自体が存在しない、でっち上げ逮捕ではないか!
また、機動隊員自らAさんが「仲間に触るな」と叫んだと証言しているが、機動隊員が特定の個人に身体的接触をしていたということは、そもそもその「公務」が適法だったかどうかも疑わしい。これを、津島裁判官は「機動隊員の一件記録を見て適法だと判断した」という。え!?ハナから警察側の供述を鵜呑みにしている津島裁判官の態度に仰天。
罪証隠滅のおそれ?一体どうして?具体的な説明なし!
裁判所は、Aさんを勾留する理由の一つとして罪証隠滅のおそれを挙げている。しかし、この弾圧は現場での現行犯逮捕で、警察は既にAさんの所持品、自宅、DNAまで調べつくしている。一体、Aさんがどうして罪証隠滅できるというのだろうか。
一個人が、証言した特定の機動隊員を探し当てて働きかけるなんて現実的にあり得ない。機動隊員の供述以外に客観的証拠はあるのか?津島裁判官は「証拠の内容になるので答えられない」と繰り返す。機動隊員の供述という証拠の存在については真っ先に口にしながら、他の証拠は存否すら答えられないというのは何とも矛盾している。
また津島裁判官はAさんが「関係者と通謀するおそれがある」「これ以上の釈明は必要ない」という。さらに「関係者」には、現場に居合わせたあらゆる人々が想定され、機動隊員も含まれると後になって言い出した。「関係者」って誰?警察?抗議者?野次馬?相手によって全然違うよね?誰に対してどう罪証隠滅の可能性があるのかということは、勾留理由の核心になるもので開示すべき内容だ。これにも「お答えいたしません!」
これらの一連のやり取りについて、捜査の秘密を盾に勾留理由開示を妨げるということは勾留理由開示制度の否定であり不当だ、と弁護士は訴えた。
最後に、本人が意見陳述。目の前にいる津島裁判官に向って「この裁判はまったくもって理不尽だ」と力強く、ゆっくりと訴えかけた。
「あの日、皆がどんな思いで抗議に集まったか、あなたにわかりますか。オリンピック・パラリンピックはあまりにも人々を苦しめてきた。野宿者排除、都営住宅の住民追い出し、そういったむごい、理不尽なことがたくさん起こってきた。原発もそうだ。汚染水は今も垂れ流されている。リソースもオリパラに奪われ、建築資材も高騰し、復興は進んでいない。今も苦しい生活を余儀なくされている人がいる。私はこれは間接的なオリパラの被害だと思っています。オリパラに抗議する人々は、そういった声を社会に届けなければという思いで集っているのです。それを排除する警察の側に立っている司法に幻滅しました。私は教科書で三権分立と習いました。違うのですか。司法はその矜持を見せてください。」
勾留理由開示公判のあと、私たちはその足ですぐ近くの警視庁へ。私たちが来るや、門を閉める姑息な警視庁。その門前で、このかんオリンピック・パラリンピックで警察が行ってきた弾圧、監視、付きまとい、そして暴力を絶対に許さない!と怒りの声を挙げた。
さらに、すぐさま弁護士から「勾留取消請求」が出された。
もはや、勾留の理由は存在しない。Aさんを今すぐ解放しろ!