本日6月3日、東京五輪公式記録映画sideAが公開される。
東京五輪公式記録映画をめぐっては、昨年末、監督である河瀨直美とそのスタッフによる制作風景を追ったNHK番組「河瀨直美が見つめた東京五輪」で、五輪反対デモの参加者が金で動員されていたかのような虚偽の内容が放送された。このことによって、私たちを含め国内外で多くの人々がオリンピック反対の声を挙げてきたことがフェイクであるかのように印象付けられ、その名誉は毀損された。NHKは未だ五輪反対デモを主催してきた私たちに対して謝罪をしていない一方で、河瀨直美やそのスタッフらには早々に謝罪をし、公式記録映画を擁護する姿勢を貫いた。そして、河瀨直美やそのスタッフらもこの問題に対する自らの関わりや責任を認めていない。
しかし、私たちが「嘘と捏造の東京五輪公式記録映画」と呼ぶのは、これだけが理由ではない。そもそも東京五輪公式記録映画は、その存在そのものが嘘と捏造なのだ。
オリンピック・パラリンピックは世界中どこで開催されても、多くの破壊と犠牲をもたらしてきた。
東京2020大会もまた例外ではない。復興五輪とアンダーコントロールの嘘で、原発事故は隠ぺいされ被災した人々は切り捨てられた。都心ではオリンピック開発の下、公共空間は民衆の手から奪われ、資本が利益を生み出す場所に作り変えられていった。都営住宅の住民、公園の野宿者は住まいを追われた。街中に監視カメラが溢れ、五輪反対の声は警察によってたびたび弾圧を受けた。移民、難民の人々は入管での長期収容や強制送還、苛烈な人権侵害に苦しめられた。4兆円とも言われる費用がつぎ込まれ、新たに建てられたオリンピック施設は巨額の赤字を生み続けている。
そして、新型コロナウイルスの世界的なパンデミックの最中、人々の命と暮らしを蔑ろにしながら、多くの人々の反対の声をよそに開催を強行した。
オリンピックとIOCは、私たちの暮らし、私たちの社会を搾取し、破壊した。
オリンピック公式記録映画は、これらの被害をなかったことのように蓋をし、あるいは、苦難を乗り越えて完遂したオリンピックという語りのために利用し、オリンピックは良いものだったと歴史と記憶を捏造するためのものだ。そして、人々にその痛み苦しみを忘却させ、再びオリンピックの熱狂へと駆り立てるプロパガンダでしかない。
さらに、今回監督を担っている河瀨直美は「オリンピックを招致したのは私たち」「みんな喜んだはず」「オリンピックで頑張っている人に寄り添うのは人間として当たり前」と五輪を礼賛してはばからない。これは同時に、オリンピックによってもたらされた数々の被害について「わたしたち」「みんな」の問題と責任の主体を曖昧にさせる政治的で悪質な態度である。
そしてあろうことか、今回の作品の中には、五輪に反対する人々の様子も取り入れているという。
いくら反対派の声を取り入れニュートラルを装ったところで、IOCから任命され制作される公式記録映画に、オリンピックへの根底的な批判が含まれないことは自明のことだ。それどころか、オリンピック反対運動をオリンピックの「光」を引き立て輝かせるための「影」として利用し、「コロナによる政府への不満を人々がオリンピックにぶつけたことで生まれた社会の分断(2021.8.21テレビ朝日)」などと勝手な解釈で歪め矮小化するもので、決して許容できない。
私たちは、私たちのデモや抗議行動の様子を公式記録映画で使用することを一切拒否し、オリンピック反対の声を掠め取り利用することを強く非難する。
現在、河瀨直美による過去の様々な暴力事件、ハラスメントが次々と明るみに出ている。
映画という表現方法を利用することで、招致以来10年間災禍をまき散らしてきたオリンピックの問題性、被害を受けてきた人々の存在を覆い隠し、それに対して声を挙げてきた私たちの反対運動を歪曲することもまた、二重三重の暴力に他ならない。
私たちは、嘘と捏造の公式記録映画を強く糾弾する。今すぐやめろ!