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Ka na taの全てを
最近Ka na taを知った人、まだ知らない人、ずっと知ってくれている人。全部に向けて。
Ka na ta 今年で10年目になります。身体の為に服を作る、特定のスタイルや立場、個性を強めるようなものは作ってはいけない、ただひたすらに、身体の為に。そう願ってこのブランドを始めた。
早稲田大学3年生の頃、六本木ヒルズ47階のホールでショーをしました。205年11月3日。服を作り始めたのは大学1年、服を作りたいと思ったのは高校1年生。部活の合間に名古屋の大須に行っては古着を買っていた。学ランの高校に通っていたけれど、ほとんど学ランを着なかった、ペンキで塗りたくったり、映画「ロミオとジュリエット」に影響を受けてアロハシャツを着たりもしていた、永遠に使われる予定のない母親のマニキュアでユニクロの無地のTシャツに絵を描いた。同級生がそれを欲しいと言った。
よくジャンレノの似顔絵を描いていた。
中学まで遡ってみる、美術の授業が嫌いだった、いつもいつも成績は5段階中2だった、なにより長身の先生が嫌いだったし、嫌われてもいた。中学3年生の頃、その男が転勤する、代わりに来たおじいちゃん先生の名前を思い出せいない、その姿、手の甲に浮かぶ血管、白髪、かすれた小さな声、そういうのはちゃんと覚えている、最初の授業は不思議な体験だった。
机の上には画用紙と鉛筆、画用紙の奥に自分の左手を置く、描いている絵を見てはいけません、描いている手だけを見て、デッサンをしなさい。
そう先生は言った。美術なんか興味がないと決めていた僕は何故かひどく集中していた。15分くらい鉛筆を走らせる、描き終えた絵を見た。
そして僕は絵を好きになった、2だった成績は5になったけれど、そんなことよりも、なんとなくただ、何かを作ることが好きになった。
小学生の僕には戻らない、サッカーをして、釣りをして、転校して、軽くいじめられ、よく泣いていた、遠視の眼鏡をかけていたせいで、メガネザルが来たと言われたから、医師の判断を無視して眼鏡を外した。今の視力は1.5
眼科だけは信じない。
そんな僕はいま32歳、Ka na taは10歳。よく生きてる。生き残ったものだけがたどり着ける場所があるんだろうか、見える景色があるんだろうか、2日前に会った灰野敬二を思い出した。
僕は今、東小金井のジョナサンにいる。
六本木ヒルズ47階、40体の服を作った、服の作り方は、誰も教えてくれなかったし誰からも教わろうとしなかった、この世界に存在している服に教わった、そして通り過ぎる無数の身体に。
別に発表したからと言って、服は売るとかはいまいちよく分からなかった。学生の無謀なエネルギーでただ走りきった、それだけのショーだった。独学の学生にしてはよく頑張った、その程度のものだ。
ショーが終わりしばらく引きこもることになる。サブリミナルという名前の野良猫と大塚の風呂無しアパートで暮らした。
就職はしなかった、適当にアルバイトをして暮らしていた。荒川修作の本を持って、逃げ込むようにパリに行った、パリにいても落ち着かないのでイタリアの山奥に行った、そこで出会ったおばあさんのことをよく覚えている。心底安心した。太陽が山の端に隠れた瞬間、17時になったね、そう言ったこと。時計を見たら、動いていなかったこと、それを彼女は眠っているの、と言った。
次に発表したのは多分2007年、ほとんど全ての独立系デザイナーがそうであるように、バイヤーを呼んでも1人くらいしかこなかった。どういうきっかけか忘れたけれど、2008年、原宿にピリオドというセレクトショップをオープンさせた、僕の店ではなかったけれど、Ka na taを取り扱うことと、ディレクションをして欲しいと言われた。
オープンの時、そのお店に並んでいたのはKa na taとwrittenafterwards。まだ玉井さんとやまがたさんが二人でやっていたころのファーストコレクションが並んでいた。
原宿の246カフェの野外テラスでやまがたさんと話したのを覚えている。その後、ほとんど会っていないけれど、また会えたら楽しいだろうと思う。
しばらくするといくつか取り扱い先も増えた。新宿の高島屋8階にまだミントやシアタープロダクツ、cosmic wonderとかを取り扱っている高島屋直営のセレクトショップがあった、そのバイヤーから連絡を貰った。何度か期間限定でショップを持たせて貰った。いま、Ka na ta東京の直営店の店長のせいこちゃんが服を買ってくれたのもその頃だった。パタンナーのじゅんきが弟子入りしたのもその頃だった、高島屋の支援を受けて初めて東京コレクションに参加することになる、2010年3月、いま思うとひどいショーだった。
periodはその頃にはもうなくなっていた。
ショーをした後はいつも憂鬱な気持ちになる。なぜファッションショーなどというものをやらなくてはいけないんだろう、こんなものはやらない方がいい。そう思った。極めてはっきりと、僕はファッションの世界には住まないと、決めた。その中心を、目指さないと。
その半年後、恵比寿のMという場所で新しいコレクションを発表する。LOOK BOOKと書かれた青い表紙の中には短編小説。僕が書いたものだ。その中に登場してくる人物が着ている服が、最後のページに値段が記載されている。
水の中のワンピース 40000円
そんな具合に。写真も絵も1枚もない。活字だけのコレクション。全国に5つくらいあったセレクトショップにそれを送った。良かったらオーダーをくださいと。写真はないんですか?と言われた。
写真も、絵も、服も今はありません。
そう言って、高島屋も含めた全てのセレクトショップとの取引が終了する。
2010年、取引先はゼロになったがお客様は増え続けていた。東京が嫌いになった。逃げるように、長野に引っ越した。
長野に暮らし始めると、それまでずっと追いかけていたことも、追われていたことも、全部一度消えてなくなった。
時々高円寺即興に服を並べた。1点ものが多かった。
H2Xと名付けた水のシリーズが始まった。
水が流れる音をずっと聴き続けて生活していると、水を作りたくなった。雨が降って濁る水が時間をかけて透明になっていくのを見ていた。美しい人は、水のようだと、思っていた。身体が水のように流れるように、人工的に水を作り出すこと。たぶん、このコレクションがちゃんとした服を作った初めてのコレクションだった。Ka na taにしか作れない服。仕立ての精度も含めて、少しだけ納得できるものだった。
僕らから新しくセレクトショップに営業することはなくなった、でも不思議と写真を見たのか、噂でも聴いたのか、オファーは届いた。でもセレクトショップとの取引を増やす気にはなれなかった。
お店を作ろう、そう決めて2013年、渋谷区富ヶ谷の住宅街にKa na taの直営店をオープンする、住所は非公開、わざわざ問い合わせをしてまでお店に来てくれるお客様が落ち着いて身体と向き合えるように、専門学校の糞ファッションフリークたちが集まらないように、そんなことを考えていた。
その少し前の話、2013年の夏、高島屋でやったショー以来、もう一度ショーをしてみようと決めていた。でもモデルがランウェイを歩いて、業界の偉い人を呼んで最前列をあけておくようなものには興味がなかった。新しいショーの形、それをぼんやりと考えていた。
夏の日、とても暑い日、池袋でマームとジプシーのcocconを見に行った、meriiと。喫煙所で見た白髪のおじさんがあまりにも綺麗だった。
観劇を終えて、プロントでワインを飲んでいた。そこに白髪のおじさんが4人組でやってきた。僕らは4人席に二人で座っていて、彼らは席がなく帰ろうとしていた、席を譲った。meriiに小さな声で耳打ちする、あの白髪のおじさん、本当に綺麗。
meriiが言う。
あれは飴屋法水さんっていう人だよ。
何してる人?
演出とかをしているんだと思う。
飴屋法水。
家に帰る途中、その飴屋さんに次のショーの演出をお願いしようと決めた。飴屋さんがどんな人間で、今までどんな作品を作ってきて、何を考えている人なのか、そんなことは一切考慮することなく、ツイッターで依頼をした。
どちらかというと、身体だけに僕の眼を向けるだけで精一杯だった7年間だったのに、飴屋さんと会って、人間について、考えた。人間。
それはとても困ることだったし、できれば身体のことだけを考えていたかった、たくさん悩んだ、人間に向き合うということは、とても怖いことだった。
その年の11月、飴屋さんと新宿三丁目どん底でショーをした。人でぎゅうぎゅうになった店内では、各フロアで色んなことが起きていた。何かを見れば、何かを見れない、結果的に3階をメインフロアだと思ったお客様が集まり、身動きが取れなくなってしまった人もいる。まるで東京だと、思った。
見知らぬ演出家に、依頼したショーは、どんなものになるのか想像もできなかった、当日まで、それがどんなものになるのかも分からなかった。ショーの最後に地下からお客様に向けて話をした。その場で生まれた言葉だけを話した。
あの子がいまどこで何をしているのか、僕は知らない。
あの子がいまどんな服を着ているのか、僕は知らない。
服はずっとあの子を支えていたはずなのに
本当に 服が あの子を守っていたのかは
僕は知らない。
そう言った。飴屋さんが3階から話す、
それでは外に出ましょう。
暗闇から店の外に出たとき、テニスコーツが歌っていた、お客様が駐車場に集まる出演者を眺めていた、しばらくして飴屋さんが出てくる、新しい服には、無数の白いペンキのようなものがついていた。それを見たとき、心底嬉しくなって笑った。それはペンキではなくて、ろうそくを消した瞬間に飛び散ったろうだった。
あの日、駐車場で、僕らはどのくらいの間佇んでいたんだろう、テニスコーツが歌い終わっても、ただ、そこにいた。その景色が、その時間が、その後のKa na taにとってどれほど大きなものだったのか、うまく言葉にできない。
うまく言葉にできないから、もう一度見たいと思った。でももう見れない。
だから人生で初めて、今度は僕が新しく、ショーの演出をしようと思った。
2014年、12月、西日暮里スポーツクラブNAS、プールを開場にショーをした。ここではそのショーについて多くを書かない。
僕は一心に、なんとかあの駐車場の光景を、それに近いなにかを、見たいと思っていた。それは演出できることではないと分かっていた、身体が人間が、そういう状態になるように、なったらいいな、と、思っていた。
2015年、吉祥寺に2号店をオープンする。キチムの隣にある小部屋。店員はいない、店内には緑色のソファー、河川で拾った石、服、カセットデッキ、店員はいない。キチムでドリンクをオーダーしてそこで1時間くらい過ごしてもらえたらと。僕は服の店の接客が基本的に嫌いだ、心が動揺しない人は気がすむまで試着を繰り返せる、それは1つの才能だ、
でも、せいぜい頑張っても1着くらいしか試着ができない、これ以上試着すると買わないといけない気がしてくる、店員のおすすめ攻撃が怖くて、それ以来、服は試着室に引きこもれる大型の店くらいでしか買えない、そういう人の為に作った。
誰の眼も気にせず、そもそも服を買うことのできないお店で、お茶を飲みながら、ゆっくりと服と身体に向き合う。
ただそれだけの場所。
2016年、5月、長野に3つ目のお店を作る。長野市信州新町の限界集落、公共の交通機関では来ることが難しい、人間より動物の方が多い場所に、作った。
最初はほとんど誰も来なくてもいい、東京の直営店だって最初はそうだった、どう考えたって、めんどくさいことだ。そうだ、ずっと分かっていたけれど、Ka na taはめんどくさい。新作が発表されてもちゃんとしたLOOKが出てこない。ホームページがないのでどんなブランドなのか分からない。店にいくのも住所をわざわざ問い合わせたり、山奥までいかないといけない、唯一気軽にいけるキチム店では服は買えない。
面倒だ。でもなんだか見ていれば www.dobyonly.comというサイトがある。
デザイナーがオフィシャルサイトと言っているサイトだ。でもそこで見れるのは服ではない、デザイナーが考えたイメージでもない。身体の肖像。今のところ僕が写真を選んでいるが、Ka na taの服が登場することはほとんどない。
何を頼りに、見知らぬ誰かはKa na taへやってくるんだろう。もちろん、友人が着ていたとか、有名な人が着ていたとか、そういう人もいる。
このブログの言葉や、dobyonlyの写真や、噂や、そういうきっかけはある。と思う。
でもね、その身体にちゃんとすでにある、なにかが、
出会った後に、動いたらよいなと、思っています。
今まで支えてくれた、お客様、友人、本当にありがとう。
僕はまだ服を作っています。
出会ったお客様や、支えてくれた友人の為に作っている訳ではないんです。特定の誰かの為に服を作るのは苦手です。
いつも、きっとこれからも、見知らぬ身体と、時々、人間の為に、服を作っています。
いやなんだ、身体が追い込まれているのを見るのが、僕はいちばん、いやなんだ。
殺したくなるんです、その犯人を。
人間は想像する生き物です。
でもその身体だけは、想像でできていません。ぜんぶ、端から端までほんとうのことなんです。
だから愛しています。
僕の服じゃなくてもよいから、あるべき服がその身体を包みますように。
水は流れるから水でいられます。
その身体もきっと水です。止めないでください。
最後まで読んでくれた方、ありがとう。
暑い日です。きっと大丈夫。
かなたより。
TOKYO 直営店 住所非公開(dobyonly@gmail.comに問い合わせ)
吉祥寺キチム店 吉祥寺直営店 kichimu.kanata@gmail.com
長野直営店 長野市信州新町信級4138(金土日のみ営業)
twitter @kanatadesign
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http://youtu.be/ei3T7q979G8かなたより 11月3日から6日まで Ka na ta ショーをします。 良かったら来てくださいませ。
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