2020年12月16日(水)水曜シェアリング・リポート

天神山アートスタジオの冬季プログラム招聘アーティストたちを交えて開催される、週に一度のオンライン集会『水曜シェアリング』。世界各地で活動中の招聘アーティストや天神山のコミュニティ、そしてスタッフが、雑談レベルで気軽な交流を持てる場として企画されています。12月16日は、京都で『本のキリヌキ:Hon no kirinuki (a clipping from a book)』をキュレーション中だったアーティスト・黒田大スケさんが登場。対馬、日本、韓国という三つの地点を介して、韓国在住の招聘アーティスト・ヒジュンさんと黒田さんが出会う会となりました。以下、レポートです。
参加者(敬称略) ヒジュン・チョイ(国際公募招聘アーティスト) 黒田大スケ(アーティスト) 千葉麻十佳(アーティスト、国際公募コーディネーター) 小田井真美(さっぽろ天神山アートスタジオ AIRディレクター) 漆崇博(一般社団法人AISプランニング代表) 深澤優子(さっぽろ天神山アートスタジオ コーディネーター) 花田悠樹(さっぽろ天神山アートスタジオ コーディネーター) 五十嵐千夏(さっぽろ天神山アートスタジオ コーディネーター)
雪が降るころ毎年なに食わぬ顔でやって来る、さっぽろ天神山アートスタジオの冬季招聘プログラム。一体どこからやってきたのか、いつからそこにいたのか、何を目撃してきたのか…あえて疑問に思うこともないほど、今やすっかり”おなじみ”の存在です。しかし、そんな”気づいたらそこにいる正体不明の存在”は、別の言い方をすれば、”得体の知れない存在”でもあります。ここは思い切って、冬のプログラムの原点に立ち返りその正体を突き止めてみよう!ということで、今回はこの方をお呼びしました。「よろしくお願いしまーす」天神山”おなじみ”のアーティスト、黒田大スケさんです。広島県を拠点に、分野横断的な美術制作や日本~アジアの彫刻史調査など、多面的に活動を展開されています。そして何を隠そう、この黒田さんこそ、さっぽろ天神山アートスタジオがはじめての(!)冬のプログラムで招聘したアーティストなのです。
「私は黒田大スケといいます……いや、だめだな、なんかすごい緊張してきた!笑」自己紹介で見えないなにかに追い詰められた黒田さん。気を取り直して、天神山の冬季プログラム以降のご自身の活動紹介へ。「ウェブサイトとかみてもらいながら、がいいですよね」とセッティングに取り掛かります。
黒田さんが活動紹介の準備をされているあいだに、ヒジュンさんから質問が。「そういえば、京都への旅はどうでしたか?」「えーと…かなりタフでした笑」先日、全国のレジデンスが参加する京都でのAIR会議に出席してきた、天神山のディレクター小田井。今回の出張は、若干忙殺されつつも、全国の同胞と共にレジデンシーのこれからを考える充実のひとときとなったようです。出張大変だったよ!と素朴な感想を素直にシェアできるのも、水曜シェアリングならではですね。
と、ここで準備ができた黒田さん。Zoomの画面共有機能を使って、ご自身のウェブサイトをみせながらお話してくださいました。「天神山には、2015年の冬にはじめて行きました。次の年にも(天神山に)行きました。最初の年が国際公募で、その次はおとどけアートだったかな?小学校に行って、インフルエンザにかかりました。」札幌の”とても寒いところ”を気に入り、その後も折を見て札幌に滞在することにしたという黒田さん。ささやかなポイントですが、札幌にずっと住んでいると、寒さはだんだんありがたくなく思えてくるもの。外からやって来る人たちの肌感覚にはおおいに気づかされることがあります。
黒田さんが冬のプログラム中に制作した作品の一つが『息の絵画』。気温の低い窓辺にシルクスクリーンの版を持っていき、ガラス面に版をセットして「は~っ」と息をはくと…ガラス面に木のイメージが現れます。同じころ天神山に滞在中だった岡和田桃さん+イナ・クウォンさんとのコラボレーション・プロジェクトです。「札幌は開拓されたまちで、開拓民やお雇い外国人がそれぞれの故郷の木をまちに植えたりしていたんですよね。それってつまり、いろんな人たちの故郷の木が札幌の風景を作っているっていうこと。(このプロジェクトは)その行為をなぞるように、札幌にある樹々のイメージを天神山の窓に描いて、ある風景をつくっていく…という感じ」一度浮かび上がったイメージは間もなく姿を消し、最後には跡形も残りません。
続いてご紹介いただいたのは”ASK(訊く)”シリーズ。この連作は、雪や彫刻などの声を発しない対象に向けて、黒田さんと共同出演者が「すいません!」「教えてください、お願いします」と何度も同じ質問を投げかけ続ける映像によって構成されています。札幌の雪原で撮影された『雪に聞く』や、韓国・インチョンの自由公園にあるマッカーサー像前で撮影された『彫刻に聞く』などがあり、いずれの場合も答えが聞こえてくることはありません。
こちらは、韓国での滞在制作作品。「蚊がいる」という意味のハングル「모기가있다」を、一文字ずつピンポイントで映し出す映像です。違う場所で撮影された同じ文字が何度も繰り返し映し出されます。韓国のある展覧会に招待された際、キュレーターが「韓国の若者が感じている社会の閉塞感」というテーマで企画を進めていると知った黒田さん。「社会の閉塞感っていうけど、それって気の持ちようによって乗り越えられる部分も大きいんじゃないか、って僕は思って。たとえば蚊とか空気とか、常にそこら中にいるんですよね。そういう見方もできるよね、元気出そうよ、って。」息苦しさはときに目でとらえられず、またあるときには(暑苦しくも)眼前からいっこうに消え去ってくれないものです。なおこちらの幾分シュールな映像、韓国語ネイティブのヒジュンさんの笑いを誘っていました。
「あと、今は東アジアの彫刻概念をリサーチしています。」1930年代に東京美術学校に留学していた東アジアの彫刻家たちに関心を持ち、リサーチをされている黒田さん。日本の植民地主義/帝国主義にもとって東アジアに広まった彫刻概念を調査し、その調査結果を制作に落とし込んでいます。『彫刻に聞く』のマッカーサー像をつくったのが東京美術学校に留学していた東アジア出身の彫刻家だったこと、さらに黒田さんの師匠を数代たどるとちょうどその彫刻家に辿り着くことをきっかけに、「自分が学んできた(彫刻の)歴史が隠してきたネガティブなものもひっくるめてちゃんと知りたい、そしてそれを自分から切り離したい」と考えるようになったそう。「僕だけじゃなく皆(作品を発表するときに)、そういうもの(日本の植民地主義に根差した彫刻教育の歴史)と関係ないものとして(作品を)発表したり振る舞ったりするけど、そんなに美術だけが純粋でいることはできないと僕は思うんですよね。京都でやった展覧会も、それのサイドストーリーみたいなものでした。」当たり前にみえるものが、実は再検討を要するような背景を持っていることがあります。黒田さんはそうした小さな秘密を丁寧に、時間をかけて暴いている最中のようです。
黒田さんがもう一つ精力的に関わっていらっしゃるのが、対馬アートファンタジアという芸術祭です。2011年に始まり、2020年に開催10回目を迎えました。第2回目からは韓国のアーティストが参加しており、以来、毎年約5人ずつのペースで韓国各地からアーティストがやってくるのだとか。実はヒジュンさんも、2018年に対馬を訪れたことがあるそう。対馬アートファンタジアについてははじめて聞いたとのことで、これからどんな関わりが生まれていくのか気になりますね。さらに、話題は韓国のレジデンスとアーティスト事情へ。韓国でのレジデンス参加経験をお持ちの黒田さんと韓国在住のヒジュンさん、一風変わったレジデンスや韓国のアーティストコミュニティーの話題で盛り上がります。黒田「ソウルはアーティストがたくさんいて、中堅層が厚い。そして釜山は、すごい有名な人とまったく無名な人の差が激しいですよね」ヒジュン「あー、わかります!」レジデンスというシステムの活用方法はアーティストによって異なりますが、黒田さんのように、札幌や韓国といった特定の地域と特に強いかかわりを築く方はめずらしくありません。普段住んでいる場所からは見えない、第二、第三のホームを見つけるような関わり方といえるでしょうか。
天神山アートスタジオの冬のプログラムとその第一号招聘アーティストについて、もやもやがすっきりしてきたところで、今度は別の”得体の知れないもの”の話に。小田井「ヒジュンは、紙飛行機を飛ばすプロジェクトに取り組んでるんですよ」黒田「紙飛行機かあ。僕、ある展覧会で紙飛行機にまつわるものすごい恐怖体験をしたんですけど。話してもいいですか?」ヒジュン「ききたいです!」切り出したのは黒田さん。遠隔とはいえ、皆で聞けば多少は怖くないはず…でもやっぱり怖かったので、レポートではあえて割愛させていただきます!(黒田さんごめんなさい!)怖い話は盛り上がり…韓国ドラマに首ったけのディレクター小田井から韓国の霊魂や精霊に関する話が出たり、対馬のある灯台にまつわる「出世の泉」の迷信、そして黒田さんを悩ませる奇妙なニンジンのエピソードが話題にのぼりました。もやもやとした”得体の知れないもの”は、一度姿を消したと思えば別の場所で、別の形で立ち上る習性があるようです。世の中にそうした尽きない不思議があるからこそ、アーティストも世界を観察し続け、制作の手を止めずにはいられないのでしょう。
”得体の知れないもの”を通じて韓国と日本、第一号招聘アーティストと最新の招聘アーティストが中継された今回の水曜シェアリング。時に私たちを不安にさせ、離れ離れにしてしまうそうしたもやもやですが、今回私たちは気楽な会話によって、もやもやの中でもなんとか互いを繋ぎ留めることができたのかもしれません。来週も、カジュアルおしゃべり会は続きます。お楽しみに!
五十嵐