2021.01.27 水曜シェアリング・リポート

参加者(敬称略)
コンスタンス・ヒンフリー(2018年度冬季プログラム招聘アーティスト) ヒジュン・チョイ(国際公募招聘アーティスト) トムスマ・オルタナティブ(アーティスト) 真砂雅喜(『みせたこともなく、みたこともない』招聘アーティスト) 岡碧幸(『みせたこともなく、みたこともない』招聘アーティスト) バン・ジェハ(Barim×天神山アートスタジオ『White Letters』招聘アーティスト) ジョン・ユジン(Barim×天神山アートスタジオ『White Letters』招聘アーティスト) カン・ミンヒュン(Barimディレクター) 野上祐希(滞在アーティスト) 松田朕佳(アーティスト) 千葉麻十佳(アーティスト、国際公募コーディネーター) 小田井真美(さっぽろ天神山アートスタジオ AIRディレクター) 漆崇博(一般社団法人AISプランニング代表) 深澤優子(さっぽろ天神山アートスタジオ コーディネーター) 小林大賀(さっぽろ天神山アートスタジオ コーディネーター) 五十嵐千夏(さっぽろ天神山アートスタジオ コーディネーター)
開催時間:19:00-21:00
深澤 「コンスタンス!」
コンスタンス 「あー!優子!!」
1月27日の水曜シェアリングで感動の再会を果たしたのは、とある“楽団仲間”の皆さん。その楽団の首謀者こそ…2018年度冬の招聘アーティスト、コンスタンス・ヒンフリーさんです。バンドメンバーは、当館スタッフでミュージシャンの深澤優子、アーティストの松田朕佳さんにトムスマ・オルタナティブさん、という豪華な顔ぶれ。一人ずつ挨拶を交わしながら、メンバーの数だけ歓喜の叫びが響きます。
コンスタンス 「今はサン・マロの実家にいるんです!『日の出前』はまだやってますよ」
2020年3月に天神山での滞在制作を予定していたコンスタンスさん。パンデミックの影響で来日は中止となりましたが、滞在制作で取り組まれる予定だったプログラム『日の出前』には、共同作業者とともに引き続き着手中とのこと。
コンスタンス 「最近、大学院博士課程で研究を始めました。3~4年越しの希望がかなって嬉しい!でも、哲学とかはずっとすごく好きなのに、私はアーティストだから大学人独特の言語みたいなものになかなか馴染めなくて。4~5ヶ月目になってやっと仲間ができた感じです。」
と、ここで、これまでの活動について簡単にお話しいただきました。
「2019年初めの天神山での滞在が、日本でのはじめての滞在制作でした。そのあと2019年夏にはアートセンター・OnGoingでの滞在制作をしたんですけど、どっちもプロジェクトは計画とは違う方向に進んで行きましたね。」
そんなコンスタンスさんが東京のアートセンター・OnGoingで出会ったのが、アーティストのうらあやかさんと津賀恵さん。お二人を中心に、フランスや日本で「女性である」とはどういうことか、というテーマで各人の経験を持ち寄り率直にシェアし合う集会が開催されました。30代にさしかかり意識するようになった「パートナーシップ」や「子ども」といった私的なトピックにも、話題は及んだそうです。
日本での滞在制作を終えたコンスタンスさん、東京での女性ミーティングについてさっそくフランスのアーティスト仲間・アリスさんに報告したそう。二人は会話のなかで、フランスの現状に目を向けてみても「話すと活躍の機会を逃すのではないか」といった不安に苛まれ“女性として生きるリアルをオープンに話せない”事実に気づきます。共有された問題意識のもと、共同プロジェクトに取り掛かることにした二人。「じゃあ、女性の物語を語る人形劇をつくろう!」そうして始まったのがアートプロジェクト『日の出前(Before Sunrise)』です。人形劇がこのプロジェクトにぴったりだったのは、語り手たる人間が生身で表舞台に出るのではなく、人形に語りを代行してもらうことで、繊細な話題を扱いながらも語り手本人を傷つけにくいような仕組みが生じるため。世界各地で創造的な活動をしている女性たちに呼びかけ、自らの女性としての物語を語ってもらうオンライン人形劇を映像として記録しています。
「プロジェクトでは、人間と同じサイズの人形を使います。あまりはっきり分からないかも知れないけど、この人形は文楽から影響を受けています。身体スケールだったり、カリグラフィーがいっぱい関係してきたりするあたりから、影響が伺えるんじゃないでしょうか。」
「劇中では、世界中の女性の物語が語られます。劇全体が、さまざまな女性たちによる“証言”のかたちをとるんです。」
「並行して、ドキュメンタリー映像を撮影しています。映像担当はアリス。取材した女性たちの芸術実践をカメラにおさめながら、同時にプロジェクト全体の記録もとっているんですよ。」
「もっと広い視点からみると、プロジェクト全体が敬意あるものになるようにつとめています。むやみに急がないように気を付けているし、人形を作るときの布は中古、それに布を染める時は植物性染料を使います。今やっていることが私たちの理想とするアートプロジェクトのかたちをとっているか、という点にはとことんこだわっています。」
「このプロジェクトにはメンバー間の階級みたいなものが存在しません。みんな年長のアーティストのアシスタントをした経験があるから、表舞台に出てこないプロジェクトメンバーがいるのはちょっと嫌だな…って思ってるんです。」
映像一本にとどまらずプロジェクト全体の成立の美しさにまでこだわる、コンスタンスさんとその協働者たち。その美意識は、しばしば社会的な存在としての「女性」をめぐって検討・更新されてきました。
小田井 「私はこれまで(キャリア形成において)面倒なことを避けたい一心で、女性であることを意識的に忘れるようにしていて。そんな私たち世代のやり方が、今も女性の生きづらさが解消されない一因なんだと思って、ものすごく罪悪感を感じることがあります。」
コンスタンス 「そうなんですか!私からすれば、上の世代の女性たちが美術業界にいること自体、ものすごいことだと思います。私がキャリアで一番重要だったチャンスを掴めたのもそういう人たちのおかげだし、そういう人たちは現在進行形で他者を助けていますから。」
松田 「でも(“生きづらさ”という点に関していえば)、ジェンダーだけの問題とも言えないと思うんです。私はコロナのあと、自分の競争相手が世界規模じゃなくなったことに気づきました。もう顔も住む場所も知らないアーティストと競争しなくていいんだ、身近な人たちにこれまでよりもっと目を向けていいんだ、って。一生懸命登り詰めようとしてきたピラミッドが虚構だったことに気づいて、今となってはより平等な構造が見えてきた気がします。」
と、ここで、プロジェクトの名前に関する質問が。
千葉 「『日の出前』で“太陽”はどういう役割を果たしているんですか?」
コンスタンス 「ここでいう“太陽”っていうのは、基本的には比喩なんです。プロジェクトの名まえ自体『ビフォア・サンライズ(=日の出前)』という映画からとったもので、その劇中ではただひたすら、(『日の出前』で女性たちが物語を語るように)人生やいろんなことについてのやりとりが交わされるんです。」
千葉 「なるほど!あと、ドキュメンタリー映像でいくつか“太陽”が出てきてますけど、これいいですね。」
コンスタンス 「アリスが、よく太陽と月の写真を撮るアーティストだからかも!」
『日の出前』は太陽が姿を現す予感を感じさせる言葉ですが、果たしてその『太陽がなくなったら』私たちはどうするのか?という疑問に取り組んでいるアーティストが、こちらの千葉麻土佳さん。太陽が消滅すると、その最後の瞬きが地球に届くまでに、理論上では8分19秒かかるとされています。一般から募った参加者に対し、そのような8分19秒間に「あなたなら何をしますか?」と問いかけるのが、千葉さんの『太陽がなくなったら』という作品です。
千葉 「昨夏(新潟で)行ったプロジェクトなんですが、いま札幌でも取り組んでみています。録音した一般市民の声とそれに付属する字幕から成る、映像作品です。」
トムスマ 「千葉さんは、“太陽がなくなったら”どうするんですか?」
千葉 「ブラックライトを買います!太陽がなくなれば、ブラックライトがうつし出すはずの紫外線も注がれなくなりますから。問題は、太陽がなくなるとみんな落ち込むだろうから、ブラックライトをうちまで配達してくれるほど元気な人がいないかも、ってことですね…」
アーティストたちは、もし太陽がなくなったらどうするのでしょう?
コンスタンス 「(太陽は爆発して消えるはずだから)地球の人たちは8分19秒ともたずにみんな死んでしまうんじゃ?技術があれば、他の惑星に移住したいけど…」「あ、でもベタだけど、親と友だちを抱きしめてキスしますね!」
松田 「裸になって外に出て、太陽の最後の光を全身で浴びながら目に焼き付けます。目がつぶれてしまうまで!」
なんと千葉さんは現在、天神山アートスタジオのウェブサイト上でこの作品の参加者を募集中。気になる方は、お気軽に参加してみてくださいね。
続いて、DPRKに関する作品を制作中のバンさんから、こんな質問が。
「皆さんはDPRKについて、どう思いますか?」
韓国国内でリサーチを進めるなかで、海外の人たちはDPRKに対してどんな印象を持っているのか?という疑問が浮かんできたのだそう。
千葉 「大学時代にDPRKからの留学生がいましたが、いたって普通の人なんだなと。彼しか知らないけど、政府と国民は違うものだと感じましたし、以降“DPRKってこういうもの”とは断言できなくなりました。」
松田 「今の政治状況だからこそ日本メディアでは恐怖をあおるような描かれ方をしてますが、昔は違ったようですよね。」
コンスタンス 「DPRK以前に、東アジアで生じている力関係自体、フランスからだととても遠い出来事のように感じます。学校でも習いませんでした。少し身近に感じたのは、韓国の“従軍慰安婦”のことを知った時。でも未だにほぼ情報が入ってこなくて、ミステリアスな印象です。」
ミン 「私は一時期日本に住んでいた韓国人ですが、韓国でより日本での方が、DPRKに関する情報は多く見聞きしました。韓国メディアは無難にまとめて報道する印象ですが、日本のメディアはもっときわどい扱い方、物議をかもすような報じ方をしてますね。」「韓国ではDPRKに関してどんな姿勢をとっているかが、その政党が左寄りか右寄りかの決め手になってます。人工中絶やフェミニズムに関する議論は大事じゃないみたいです。」
天神山スタッフでミュージシャンの深澤さんは、数年前に日本のメディアが<モランボン電子楽団>について集中的に報道した時期を振り返ります。「(みんなの言うように)最初は怖いな、ミステリアスだなと思ったんですけど。同時に、この女性たちは音楽を演奏するのが好きなのに“自由に演奏すること”はできないだなんて、かわいそうだな…とも思って。」そこで、もしDPRKの政治体制が独裁性を弱めたら、という未来を想定し、そのときに楽団メンバーに歌ってもらえるような曲を書き下ろしたのだそう。メディアから伝えられるわずかな情報が(わずかであるからこそ、でしょうか)、アーティストの創造意欲を刺激することもあるのですね。
と、ここで話題は、キム・ジョンウンのヘアスタイルにみられる独創性へ。
トムスマ 「あれはDPRKではおしゃれなのかな?政治思想を表してるんでしょうかね?」
千葉 「おじいちゃんから受け継いだ、っていう説もあるみたい…?」
コンスタンス 「髪型が政治的な主張を表すっておもしろいですね!フランスでは、’68年の五月革命を経験した人たちはみんな、放置された庭みたいに伸び放題のロングヘア笑 あと、うちは父の髪型がかっちりしてるんですが、兄の髪型がその正反対だったりするところにも主張を感じます笑」
たかが髪型、されど髪型。世代を超えて受け継がれるものと受け継がれないものとの違いは、一体どんなところにあるのでしょうか?一人の政治家のヘアスタイルが、ゆったりおしゃべり会に気になる視点をもたらしてくれた気がします。
そのあとは、コンスタンスさんの楽団仲間を中心として、近況報告に花が咲きました。「最近こんなプロジェクトに取り組んでて…」「今度こんな展示に参加するんです!」「ビザの手続きがちょっと大変」などなど。長年尊敬しあうアーティストどうし目を輝かせながらのやりとりが印象的でした。
普段会えない大事な人たちとの再会は、Zoom上であろうとちょっとした大事件。思わず時間を忘れて会話に没頭しつつ、予定の時間を少しだけ過ぎたころ、名残惜しくも別れの挨拶を交わしました。
(五十嵐)