2021同時期滞在日本AIRプログラム_井上修志 Shuji Inoue

image

◇プロフィール

井上は宮城県出身のアーティストである。多摩美術大学工芸学科を卒業後、東京藝術大学グローバルアートプラクティス専攻へ入学する。在学中ミュンスター美術アカデミーへ交換留学をした後、修了制作でG A P賞を受賞し修了する。

自身が中学生の時に3.11を経験し、街が一瞬にして流され瓦礫となっていく光景を目の当たりにして大きな衝撃を受ける。その経験から自然と社会の構造や関係性について考え始め、作品を制作している。井上の制作スタイルは一つのジャンルに固執せず、社会と自然というテーマを持ちながら幅広い表現形態を持つ。ある時は実際の街中へ介入するパフォーマンスや映像作品、またある時は街中で拾ったゴミや廃棄されてしまった不用品などを使う立体作品を制作する。

◇プロジェクト概要(計画)

私は自然と社会を起点にコンセプトを展開し、制作している。そのテーマに至る過程には3.11の経験が大きく影響している。また現在の社会の形を変えているコロナウイルスも例外ではない。

私たちは文化の創造とともに人間的尺度の世界(社会)を作り上げてきた。それは木や石といった素材で住居を作ることや海を埋め立てて土地を獲得すること、化石燃料や化学エネルギーを利用可能なものとして消費してく事など人間にとって住みやすい環境整え、社会を形成していくことだ。その社会の形成が生活世界とその外側にある自然という対立関係の意識や生活世界の背景としての自然という感覚を作ってきた。そんな中で大地震による未曾有の津波やコロナウイルスが我々を襲い社会を震撼させている。津波やコロナウイルスといった人間スケールを超えた自然の事物が生活世界に流れ込んできたような状況だ。私たちが作り上げた社会は自分たちが思っているよりも脆く崩れやすい。

産業革命以降、私たちの持つテクノロジーは飛躍的に成長し生活を助けると同時に、文化の発展も遂げてきた。その発展に大きく貢献した要因の一つは炭鉱と言えるだろう。鉄の生成や加工などにより文化は驚く速さで進歩し、日本でも明治以降には大々的に炭鉱が勧められ近代化を図った。私が滞在する山口県宇部市も炭鉱で栄えた町の一つであり、炭鉱が現在ある私たちの生活基盤を作ったと言っても過言ではない。しかし、最大時1047あった炭鉱も現在稼働しているのは釧路コールマンだけである。地球内部まで潜り込む炭鉱の現場は地下深くまで掘り進み、良くか悪くか自然と向き合う現場なのかもしれない。

進化生物学者のジャレド・ダイアモンドは著書「銃・病原菌・鉄」でタイトルにある三つが文明を大きく変化させたと述べ、大陸侵略の歴史について言及している。鉄の生成や加工に大きく貢献したと同時にほとんどが閉山し、まさに栄枯盛衰をたどった日本の炭鉱。そして数えきれないほど人類に影響を与えてきた病原菌の1つであり、未だ猛威をふるうコロナウイルス。これらはジャレド・ダイヤモンドが述べる文明の発展と大きく関わっている。しかし大陸侵略の歴史における発展と現在の発展は大きく違うはずだ。目指すものは侵略を目的とする新大陸ではなく、社会と自然の関係を紐解き私たちの生活世界を捉え直す事ではないだろうか。当時の現場や現在も稼働を続ける釧路コールマインを巡り考えてみたい。

◇アーティスト・webサイトなど

You are using an unsupported browser and things might not work as intended. Please make sure you're using the latest version of Chrome, Firefox, Safari, or Edge.