昔の記事、見つけました。この後、ついに日本は、第三国ジブチに永久軍事拠点を持つまでになりました。この「9条は日本人に、もったいない」は、「新9条論」の原点です。僕にとって二度目の空気を読まないケンカです。(長文お許しを)
憲法9条は日本人にはもったいない・伊勢崎賢治/朝日新聞(2009年5月2日朝刊)「最大の違憲」ソマリア沖への自衛隊派遣に、なぜ猛反対しない?
—–紛争屋・武装解除人、大学教授の伊勢崎賢治さん(51)
東ティモール、シエラレオネ、アフガニスタンで紛争処理を指揮した「紛争屋」「武装解除人」の伊勢崎賢治さんは「今の日本人には憲法9条はもったいない」と言う。
ソマリア沖への自衛隊派遣は「戦後最大の違憲派兵」なのに、ろくな反対運動も起きないからというのが理由だ。憲法記念日を前に話を聞いた。
(編集委員・刀祢館正明)
ソマリア沖への海上自衛隊の派遣は、これまでと異なり、日本に関係のある船舶を海賊から守るためとされています。内閣府の世論調査では63%が賛成しています。
「国連の平和維持活動(PKO)への参加もイラクへの陸上自衛隊の派遣も、日本政府は『国際貢献』や『イラクの復興支援』を掲げました。良しあしの議論はさておき一応は『世界益』です。しかし今回は首相の国会答弁をはじめ、もろに『国益』が出てきた。こんな状態は戦後初めてです。日本はついに、国益を掲げて自衛隊を海外に出すようになってしまいました」
国益を守るためなら構わないのでは、という人は多いのでは。
「いやいや、これは明白な憲法違反です。現行憲法が生まれた背景には第2次世界大戦への反省があります。日本人は新憲法を受け入れると同時に、強大な軍事力は持たない、軍隊を外に出さないと守れないような国益は求めないと誓ったはず。これは憲法9条の根幹です」
「ぼくはイラク派遣はもちろん、インド洋沖の給油活動も違憲だと考えます。ただし、実質的には戦争への協力ですが一応は『世界益』を装っている。ソマリア派遣に比べればまだましだと思うようになりました」(苦笑)
一般からだけでなく、護憲派からも、ソマリア派遣に大きな反対が出ているようには見えません。
「最も激しい反対運動が起きると思ったのですが、当の護憲派が反応しない。だから『9条はもったいない』とコラムに書きました」「彼らは9条を変えさせないため、長い間ふんばってきた。自衛隊を海外に出してはいけない、国連PKOへの参加もだめだと主張してきました。ぼくはPKOを『世界益』ととらえますが、彼らの批判精神は評価したい。でも今回の、9条の根幹に挑戦する国益を掲げた海外派兵に、彼らの批判精神が反応しません。日本人を助けるためだったらしようがないと考えるのだったら、もう護憲運動は崩壊してしまいます。ぽくは護憲派です。『敗北宜言』をしようとさえ考えました」
自衛隊では海賊から守れないということですか。
「そうです。自衛隊が海外で日本関係船舶の護衛をすることは間違い。憲法上、軍事力で国外の日本人の生命・財産を守ることは出来ません」
「自衛隊に対する海外の認識は軍隊です。軍隊と警察は別の組織。代わりは務まりません。今はソマリア沖に各国の軍艦が集まって海賊対策をしていますが、本来は沿岸警備の問題です。ソマリアの現状はまったくの例外です」
では、現実の危険を前に、日本はどうすればいいのでしょう。
「ソマリア沖を避けて、遠回りの航路を選ぶことです。アフリカ南端のケープタウンを回ることも必要でしょう。そのために輸送日数がかかったり費用が増えたりしても、9条を持つ日本人が払わなければならないコストと受け止めるべきです」
「中長期的な対策としては政府の途上国援助(ODA)を通じた周辺国の警察力、沿岸警備力の強化があります。日本は、マラッカ海峡ではアジア諸国と協力しリーダー格です。海賊情報の交換も進んでおり、国際的に高く評価されています。これは日本のお家芸です。なぜ、アフリカでも同じことが出来ないのでしょう」
憲法改正のための手続 きを定めた国民投票法の施行まで1年余です。改憲の動きがまた出てくるでしょうか。
「『九条の会』など護憲の集まりに呼ばれて話すのが、『ぼくは基本的に護憲派を含む日本人を信用していません』ということです。小泉さんみたいなセクシーな首相が現れて改憲を訴えたら、世論はそちらに動くでしょう。油断は出来ない、と言っています。」
紛争処理の現場からは、憲法と自衛隊はどう見えますか。
「9条の下で自衛隊が出来ることはたくさんあります。冷戦後、内戦や紛争は増加しています。ルワンダの虐殺でわかるように、人を殺させないための平和介入には武力行使が必要な時があります。これは否定できません。武力は数ある平和介入の選択肢の一つに過ぎません」
ほかには何が?
「敵対勢力間の信頼醸成のための軍事監視団です」
外交官や非政府組織(NGO)では。
「出来ません。軍人だからこそ意味がある」
何が違うのですか。
「相手も軍事組織です。そこに中立な立場の軍人が、非武装で立ち向かうことが重みを持つ。彼らから見れば軍人は武装して当たり前。それが丸腰。だから説得力があります。どの国から派遣されているかも重要です。日本が持つ中立的なイメージのおかげで、軍事監視は自衛隊のお家芸になるはずです」
非武装の軍人に積極的な意味があるわけですね。
「そうです。でも一部の護憲派、特に年配の人たちは理解してくれません。彼らは自衛隊を否定すること、海外に出さないことが悲願です。なのに今回、日本人を救うためなら反対しない人がいる。これにぽくは怒っています」
日本さえ平和ならいい、というわけですね。
「護憲派の中でも、憲法の前文が忘れられているのではないでしょうか。読めば一国平和主義ではいけないとわかる。でも彼らは前文はどうでもよくて、9条が目的化している。前文と9条の間にすき間を見つけ、そこを突いて対テロ戦に持ち込んだのが小泉元首相です。我々は前文と9条をつなぐ努力をしないといけません」
「9条は道具です。外交の道具にも、自分たちを守る道具にもなります。現行憲法は9条を使って前文の理念を実行しなさいと言っている。ぼくは今まで紛争処理の現場で、日本人であることで大変得をしてきました。日本は経済大国だが侵略はしないという安心感。広島、長崎に代表される、被害者の立場に立ってものを考えられるまれな大国。アメリカとは違う、自主性のある国。これは『美しき誤解』かもしれません。でも大事にしたい」
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ソマリア沖派遣
ソマリア沖で昨年起きた海賊事件は111件。日本関係の船舶は年に約2千隻が通り、3隻が被害にあった。海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」と「さみだれ」の2艦が3月14日に広島を出港、現地で海賊対策に携わっている。海自のホームページによると4月30日までに12回、護衛活動を行った。政府は自衛隊法82条に基づく海上警備行動として派遣した。国会で審議中の海賊対処法案が成立した後は、こちらに切り替える。海上警備行動では相手に危害を与える可能性のある「危害射撃」は正当防衛と緊急避難に限られるが、対処法では「任務遂行のための武器使用」が出来るようになる。麻生首相は海自派遣について4月14日の本会議で「日本の国益を脅かす死活的な問題」と答弁している。
伊勢崎賢治
57年生まれ。早稲田大大学院理工学研究科修士課程修了。インド留学後、国際NGOに加わりアフリカで活動。東ティモール、シエラレオネの国連PKOで紛争処理や武装解除を担当。アフガニスタンで日本政府特別顧問として武装解除を指揮。現在は東京外国語大教授。著書に「自衛隊の国際貢献は憲法九条で」「さよなら紛争」など。
取材を終えて
目力のある人だ。平和から遠い土地で、軍や武装集団を前に命をさらして戦ってきたことがうかがえる。その男が世論の大勢にケンカを売っている。「このくらい言わないと今の日本人は目が覚めませんから」このケンカ、あなたは買うか買わないか。平和であり続けることも覚悟がいるのだと、あらためて知った。
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10月31日(土)午後7時半開演
於:吉祥寺 メグ:http://www.meg-jazz.com/map.html
with 多田和弘(b)、真喜志透(dr)、坂本彩(p)