シンプルな暮らしのレシピ — 後ろの席で「面接」が始まった。  ...

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highlandvalley
後ろの席で「面接」が始まった。
 
エプロンを外したバイトの子(たぶん女子大生)と、アラサーぐらいの女性マネージャーが面談を始めたのだ。
「今日は寒いねえ」という何気ない会話でまずは場を和ませる。どうやらバイトの子に「自己採点シート」のようなものを書かせて、それにもとづいて話を訊くつもりらしい。その子はバイトを初めてちょうど一週間、仕事の習熟度をチェックするようだ。明確な目的を共有したうえで面接がスタートした。
で、すごいのはここからだ。
 
この女性マネージャー、とにかくバイトの子に喋らせる。自分はあいづち+質問に徹して、バイトの子の言葉を拾い上げることに全力を注いでいた。これだけでも普通の管理職にはできないことだ。組織の目的だとか自分の目標だとか、上の意見を下に押し付けることを「面接」だと思っている中間管理職は珍しくない。部下の――しかもバイトの意見をまるで神託のように真剣に聞くだなんて、このマネージャーただ者じゃないぞ。二人の会話を盗み聞きしながら(本当にごめんなさい!)、私はそう直観した。
 
質問の投げ方もすばらしい。
必ず「5W1H」の問いかけをしており、YES/NOで答えられる質問は絶対にしない。単純な回答の応酬では会話が途切れてしまうからだ。「バイトの子が自分の言葉で語る」のを重視しているようだった。
そして質問する内容は:具体的・客観的な内容よりも、抽象的で主観的なことを語らせようとしていた。あくまでも「語らせる」であって「聞き出す」ではないのがポイントだ。たとえば職務上のミスについて、ミスを犯した原因を分析したり、具体的な対処策を考えたり――そんなことは後回しにしていた(それらは上司であるマネージャーが考えることであって、バイトが考えることではない)。ミスをしたときにどんな気持ちになったか、ミスをしたとき周りのスタッフはどんな気持ちになったと思うか……。そういう「感情」の話を、バイトの子に語らせたのだ。
 
人は誰しも、心に防備を固めている。
社会性を身につけるには、感情に振り回されないことが重要だ。だから外界の刺激と感情との間に「理性」というクッションを置いて、私たちは心の動きをコントロールしている。どんな人でも思春期を過ぎる頃には、この「心の防備」がほぼ完成している。しかし「感情について語る」と、この防備が少しずつ外されてしまう。
 
最終的に、バイトの子は泣いた。
仕事のミスをした瞬間の焦りや恐怖、あるいは翌日の不安――。そういうものを思い出して、こらえきれなくなったのだろう。声を震わせて、時々すすり上げて。顔を見なくても泣いているのは明らかだった。
 
「うん、うん。大丈夫だよ」と女性マネージャーはあいづちを打つ。「だから頑張ろう。一緒にがんばっていこう」
「はい……えっく……ありがとうございます……ぐすん」
陥落だ。
 
すげーな、って思った。
 
ひょっとして、これって「コールド・リーディング」ってやつじゃないか?相手の外見や口調から内面を予想して、それを抽象的な言葉で質問する。と、質問された側は自分の内面を言い当てられたかのような気持ちになってしまう。そしてごく自然に内面について回答してしまう。そうやって得た情報をヒントに、質問者はさらに内面に踏み込んだことを訊いていく――。これを繰り返すうちに、質問を受ける側は「この人は私のことを理解してくれる!」と全幅の信頼をよせるようになる。そして「このお店のためにがんばろう」という言葉を、すなおに自分の意識へと組み込んでしまうのだ。
Source: rootport.hateblo.jp