KARASU no ZAREGOTO

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Skyrim不動産案内番外編:Whiterun Watch

 Whiterun Watchと名付けられたその小屋は、名前のとおりホワイトラン要塞の見える丘にある。
 建物を見つけたのはうちの同僚で、彼女はこの小屋に、住み手がいなくなって荒れ始めた家特有の気配を感じた。
 調べてみると住民はいることになっていたが、少なく見てもこの一ヶ月、誰かが出入りしたような様子はなかったらしい。冒険なんかで長い時間留守にする家主もいるけれど、たとえそうでも人が住んでいる家と、完全に放置された家とでは確実になにかが違う。これは僕ら不動産業者の直観みたいなものだ。留守がちでも大切にされている家は、汚れていたりはしても、なんていうか、いきいきとした感じが残っているものだ。
 物件の所有者はイグナヴァス=ドータス。不動産そのものについては、ホワイトランのベレソア雑貨店が扱っていた。
 僕たちは商売として不動産業をしているが、みんな、家や土地が好きだからこの仕事についている。だから、住み手のない家が荒れるに任せられているのは見過ごせなかった。それで彼女がベレソアさんに尋ねに行くと、ちょっと皮肉な感じのあの店主はひどく驚いて、てっきりまだ住んでいるものだと思っていた、と言ったそうだ。ベレソアさんは今更この小屋を管理するのに労力を使いたくないらしく、ドータス氏がどうなったか調べるのも、以後の土地と建物の管理も、そっくりうちが請け負うことになった。
 彼女はすぐさまここに引き返して小屋を検分しようとした。けれど途中でそれを断念し、僕に持ちかけてきた。君には腕の立つ知り合いがいるでしょ、と。

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「で、ここがそうか」
 僕はまだジェインに、同行を頼んだ詳しい事情は話していない。ただ、僕らみたいな戦わない人間にはちょっと無理だからと言ったら、あっさり引き受けてくれた。
 たまたま二軒同時に、僕らみたいな普通な社会人では手に負えない家が出てきて、”あっち”―――僕が見つけて、絶対に二度と行きたくない、というかトラウマがなくたって僕には無理だと思った物件のほうは、あの青い髪のおじさんさんが行ってくれたらしい。
 ジェインがこっちに来てくれたのは好都合だった。別におじさんさんでは困るというのではなくて(おしゃべりがすごくていつも振り回されるけど)、こっちはいかにもジェイン向きの案件があったからだ。
 ともかく、場所はホワイトランの北で、

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 ただし、ホワイトラン近郊とは言えない。このへんはちょうど、ペイル地方との境目あたりだ。

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 名前の理由が分かるくらいには見事な眺めで、岩場の突端に椅子が一つあるのは、ドータス氏が置いたものかもしれない。
 2人で眺望を楽しんだ後、僕はジェインに改めて、この家について分かってることを話した。
 この家には鍵がかかっている。僕には鍵開けの技能なんかないが、諦めたのはだからじゃない。この鍵はたぶん、ピッキングでどうにかなるタイプのものじゃなく、専用の鍵が必要なのだ。そして、それそのもの、鍵がないというのが理由で諦めたのでもなかった。
 鍵の在り処なら、手掛かりはある。僕はジェインを家の裏手に誘った。

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 ドータス氏が残した日記によると、彼はシロディールに暮らしていたが、ストームクロークの蜂起を聞いて、いてもたってもいられずにスカイリムへやってきた。現地の帝国軍に入るのではなく、どこかを拠点にして別のグループを作ろうとしたらしいことも書かれている。
 足がかりにする場所を探し、ベレソアさんからこの家を買い、ずいぶんと気に入ったとようだ。
 けれど彼はやがて、スカイリムの厳しい現実に打ちのめされた。巨人にマンモス(彼はマンモスというものを知らなくて、”象みたいな生き物”と書いている)、それに山賊たち。そんなものが当たり前にうろついてる厳しいスカイリムでストームクロークに抵抗する組織を作ろうとしたら、どれほどの給金を払わないといけないのか。……案外みんなタダ働きでも戦ってることを、彼は知らなかったらしい。
 たぶん、彼自身がこんなところで戦っていける気がしなかったからだろう。彼は迷った挙げ句シロディールに帰ることを決めた。
「……で、東の農園っていうんだから、ロレイウス農園だな。あそこから街道を辿ってホワイトランに行こう、とか書いたのが絶筆か」
 もちろん、そこまで書いた日記を置いて行ったのだから、続きが書けるはずはないが、ベレソアさんいわく、彼は落とし戸について尋ねに来て以来 見かけていないとのことだ。
 ドータス氏はおそらく、ここからホワイトランに行くまでの間でなにかあって、亡くなっているのではないかと思う。だとすると……
「なるほどね。山賊だかなんだかにかち合う可能性があるから、俺の出番ってわけか」
 ところが実はそうじゃない。僕がどうしてもジェインをこっちに連れてきたかったのには、もう一つ理由がある。

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 日記には、開けられない二つの鍵について書かれていた。
 一つはこれだ。巨木の切り株の裏に、施錠された金庫がある。
 そしてもう一つ、家の中に鍵のかかった落とし戸があると日記に書かれている。ベレソアさんが「開けられないか」と相談されたというヤツだ。だから僕は、そういったことの得意なジェインにぜひ見てほしかった。
 切り株裏の金庫の鍵は、やはりピッキングできるものではないとのことだった。
「まず家の鍵を見つけるのが先だな」
 ジェインに言われ、僕らはドータス氏の足取りを追って東に向かった。

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 彼は見つかった。ジェインが射倒した密猟者たちに殺されたのだろうか。それとも巨人を刺激してしまったのか。いや、スカイリムから逃げ出そうとしながら巨人になんか近寄らないだろうから、犯人は密猟者だろう。あるいは他の山賊か。
「小屋の南に山賊たちのアジトがある。そこからこのへんまで狩りに出てこないとは言えないしな。けどまぁ、このへんの山賊の相手もできないのにストームクロークに対抗しようなんて、土台無理だったろうな」
 ともあれ、鍵は彼が持っていた。それを手に入れた僕らは引き返し、いよいよ小屋に入ることにした。

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 ドータス氏が気に入った小屋は、一見みすぼらしいかもしれないが、いわゆる”コージー”で、決して粗末ではなかった。赤々と燃える囲炉裏(火を消して行かなかったのかとは言っちゃダメなんだろう)、調理鍋、彼が気に入った本棚。壁にはささやかながら武器棚もある。

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 そしてこれが、彼がどうしても開けられなかった落とし戸か。傍にはまだ使えるロックピックがいくつか落ちていた。僕はてっきりここも専用の鍵が必要なのだろうと思っていたが、ジェインはものの数秒で簡単に開けてしまった。

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 落とし戸に入ってみるのは後にして、脇には少しだけ高くして板張りにした空間があるようだ。ホワイトランの民家に同じタイプの間取りがあったように思う。
 ローケースの上にはキナレスの祠が置かれ、ささやかだが灯明も供えられている。壁のリースも、ともするとその一環かもしれない。

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 狭いけれど快適そうな小部屋だ。読書家だったらしいドータス氏らしく、本が一冊壁掛けの棚に残っている。
 華やかさや贅沢さには無縁だが、シンプルで住みやすいいい家だった。
 ただ、昨今はどうしても、製作設備の一つや二つ揃っていないと、という風潮にある。ドータス氏が恐れたような危険な世情では、無理もないことなのかもしれない。
 しかしきっと……と僕らが思ったように、それはしっかり地下に用意されていた。

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 ドータス氏はここに入ることがなかったわけだが、それにしては綺麗ですぐにでも使えそうだった。錬金素材は横の樽に保管したら良さそうだし、

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 付呪台の傍には立派な宝箱もあるから、ベッドルームに仕舞っておくにはちょっと、なんてものがあるならここに保管したらいいだろう。気になるのは、作業台はあるけれど金床や砥石がないことだ。
「つまり……防具を強化することはあるし、錬金、付呪ならするけど武器は使わず、あれこれ作ることもなかった、てことか」
 だとしたら、ローブではなく鎧を身につけた魔術師とか、そんな感じになる。
「案外、素手で格闘するっていうモンクとかだったりしてな」
 ドータス氏の前の住民(ともするとそれより更に前なのかもしれない)は、そんな人だったのかもしれない。
 作業台しかないのは中途半端に思われるかもしれないが、金床と砥石ならこのスペースにもなんとか追加できないこともないだろう。それが難しくて、かつどうしても必要なら、家の裏手に皮なめし台もあったし、作業台も含めて全部そこに揃えてもいい。
 そしてジェインは、作業台の傍にかがんでそこから金色の鍵を一本取り上げると、牙を見せてにっと笑う。
「じゃ、開けに行こうぜ」
 こういうものをすぐさま見つけ出す目敏さは、さすが冒険家だった。

 金庫の中身はささやかなものだったが、あそこにも収納ができると考えればそれでいい。
 住民の死亡が確認できたことはベレソアさんにも伝えるべきだろうと、僕らはホワイトランへ向かった。
 そこでおじさんさんと、……まあやっぱり、そうだったんだなと僕は思う。あれはジェインが、そしてきっと同僚たちが僕を心配して仕組んだお芝居だったのだ。ハイエルフにしてはひどく小柄で、それに彼等の肌は黄色みが強いことが多いのにノルドのような白。黙っていても感じる静かで冷たい威圧感みたいなもの。絶対にバレないようにするなら、彼等も来る可能性の高い今夜ここに寄るのを、ジェインはなにか言い訳をして止めただろう。だからもう知られてもいいと思っているに違いない。
 けれど僕は、わざわざ言うことはやめておいた。
 バナードメアでそれぞれの家の情報を交換して、おじさんさんたちが手に入れた吸血鬼の手記と、僕らが持ってきたドータス氏の日記も交換して読んだ。大望を抱いた(僕らからしたら迷惑以外のなにものでもないが)、しかもかつては組織のリーダーだった吸血鬼もものともしないのだから、やっぱりすごい人はすごいんだなとつくづく思う。
 ところで、途中で金髪で肌の浅黒いウッドエルフの……たぶん僕より年齢は上だと思うけど、人間だったら二十歳になるかどうかって感じの子が来て、小柄なハイエルフのほうのおじさんは彼と出て行ってしまった。どうやら彼はホワイトラン公認の家、改築された素敵な住まいに、少年を留守番として置いていて、そこを旅の拠点にしているらしい。
 ジェインはなんでだか面白そうに笑いを噛み殺している。シーエルフのおじさんさんは「:( •ᾥ•):」な感じだった。これっていったいどういうことなんだろう……??
 そんなおじさんさんはほっといて、と、僕はジェインからDraven Manorに誘われた。
「たまには自分とこの扱ってる物件で寝るのもいいだろ。ゲストハウスに泊まれよ。あ、飯はみんなで食ってからな。じゃあな、おっさん」
 まだ笑うのをこらえているような様子のジェインと一緒に、僕は「(੭ु ˃̣̣̥᷄⌓˂̣̣̥᷅ )੭ु」なおじさんさんを宿屋に残し、外に出た。





【あとがきと、日記の内容】

 分かる人には分かる、そーゆーオチですw
 おじさんが企んだこと、しかし、パパが一応家にしているのはブリーズホーム改なので……という。私が書いてきてる雑多なキャラネタSS調プレイ記を片っ端から呼んででもいないとまず分からないオチです:( •ᾥ•):
 ちなみに、”あっち”を書いている最中にはこのオチは全然思いついてませんでした。こっちを書いていても、実はギリギリまで思いついていませんでした。最後の最後、宿屋に四人集まった後を書きながらふと、「あれ、そういえば……」と。
 そんなうちのキャラネタはさておき、日記の内容は簡単な英語で、しかもなかなか面白かったので、ざっくり訳した全文を以下に記載しておきます。


1.ストームクロークの蜂起をきっかけに、私、イグナヴァス=ドータスは快適なインペリアルの都市を離れ、北に旅することにした。帝国軍に参加するかは分からなかったが、なにかしなければという気持ちになっていたのだ。ただ座して、愛するこの国が引き裂かれるのを見ていることなどできない!

2.幸い、特に危険なこともなく国境を越えることができた。きれいだがどこか刺々しい感じのリバーウッドの女性が、弟が行方知れずなのだと私に語った。彼女は帝国軍が弟を連れ去ったのではないかと心配していた。とても彼女に、自分が生粋の帝都人だとは言えなかった。また、彼女はホワイトランという町が川下にあり、そこはソリチュードよりずっといいと教えてくれた。

3.とうとうホワイトランに着いた。このへんに住むのがいいと思えたので探してみると、地元の業者から手頃な山小屋を買うことができた。これで再集結の拠点ができた。そこは都市の丁度北にあり、業者いわく素晴らしい物件、まるで宝物だとのことだ。行くのが楽しみでならない。

4.素敵であたたかい炉! このキャビンが本当に気に入った。大きくはないく、実際のところ掘っ建て小屋よりはマシといった程度だが、中には火が燃え、外に寒風の吹く音が聞こえても、それを感じることはない。いくらかの収納もできるし、いい感じのあたたかなベッドもある。それに本棚だ! 結集の呼びかけは少し延期し、拠点として整えることにしよう。いくらかの本でも読みながら。

5.フロアには落とし戸が一つある。しかし家の鍵では開く気配がない。ベレソアに尋ねてみなければ。

6.いくらかの偵察を行った。すぐ後ろの木立の中に、奇妙な、古い石造りの廃墟がある。とても魅力的とは言えない。それに、巨木の切り株の向こうに施錠された金庫があることにも気付いた。鍵師になってみなければ!

7.ベレソアは落とし戸について自分にできることはなにもないと言った。しかし彼は私に、フォークみたいな道具をくれた。「これを使うんだ」と彼は言った。しかし相変わらず私は落とし戸を空けられずにいる。なんて難しいんだ。この下になにがあるか気にかかる……もしかしたら宝でも? 鍵の掛かった金庫について思い切って彼(ベレソア)に尋ねる気にはなれない。

8.今夜、外から奇妙な騒音が聞こえて目が覚めた。まるでタムリエルそのものが震えているような感じがした。なんだろうかと外に出てみると、私が見たのは大の男が宙を飛んで行くところだった。こんなことはシロディールでは起こったことがない。そこには何人かの巨人と、象に似た生き物がいた。私はそれきり明け方まで眠ることもできず、私の心はシロディールの緑の丘をさまよいはじめた。……神殿地区……美しい乙女たち……そしてマッドクラブ。

9.外にはいくらかの大規模な山賊グループがあるに違いない。彼等は草原をのし歩いている。彼等はあの象っぽい生き物よりタチが悪い。こんな暴力的な環境にあってなお、安楽な暮らしを捨て、ストームクロークに抗するため決起してくれた人にいったいいくら支払えばいいのか、考えたくない。

10.心は決まった。シロディールに戻ろう。東の丘の下に農場がある。明日そこへ行き、ホワイトランまで街道を辿って、業者、あるいはほしいという人がいればその人にこの小さな小屋を売るのだ。旅路にはダガーを一本持って行こう。山賊たちにかち合わないとも限らない。そうならないことを願う。


 ……という感じでした。
 ホルテッドストリームの野営地、ヴォルンルード、ロレイウス農園のことが、名前は出ないまましっかり書かれていますし、農園に行くまでの間にある、名前もなくロケーションとしてのマーカーもないものの巨人とマンモスがうろつく場所もきちんと関わってきます。
 ただ、シリーズプレイヤーにとってはシロディールがそれほど安全でないことも明白なので、この人いったいどうやってここまで来たんだ、こんなへっぽこで対抗組織作ろうとしたのか、とちょっとびっくりしますね。
 面白いのはロックピック。オブリ時代のシロディールでの解錠は、今のスカイリムの方法とはまったく違っていたなぁとw それが今も続いているのかもしれません。だから彼にとっては「なんだこのフォークみたいなの?」だったんでしょう。
 ベレソアが絡んでくるのも面白いし、家としても、なんでかつての自分はこれを却下したのかイミフなレベルに良物件です。たぶん、製作ルームに入るのにロードが必要で、しかも全部揃っているわけでなく、とかいうあたりだったのかと思いますが……それとも、アプデが入るまではもっとみすぼらしく雑だったか。なにせ見に来た記憶はあるのに、裏手の日記のことは今回初めて知りました。
 小さくて素朴なおうちがほしいかたにはかなり高得点ではないかと思います!