KARASU no ZAREGOTO

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Skyrim不動産案内番外編:Mountainside Retreat

 モーサルの一件を片付けてリバーウッドに戻ってくると、私を見た青年が慌てた様子で駆け寄ってきた。名前を確認し、手紙を預かっているのだと言う。例の”友”からだろうか。それともグレイビアードか。いったい誰からだろうと裏書を見ると、差出人は"アン"となっていた。
 アン―――束の間リバーウッドに住まいを構えていた、あの一家の婦人か。それ以外に、私にアンという名の知り合いはいない。
 忽然と現れた家は、現れたときと同様に忽然と消え、アン、エリー、マテオの3人(とその飼い犬)も姿を消した。戦争の両側に武器を売るという危険な商売をしていた祖父・父(義父・夫)がいたのだから、夜逃げ同然に身を隠すこともあろうかと思ったし、現れては消えるいくつもの家のように、スカイリムの不思議の一つかもしれないとも思っていた。
 あれからだいぶたつ。私に手紙とは、どういうことだろう。気になった私は、その場に立ったまま封を切った。


 ―――もしかしてあの一家は、基本的におっちょこちょいなのかもしれない。ありがたい申し出に、ともかく見てだけでもこようとやってきたのだが、案の定、どこにあるのか探さねばならなかった。
 アンからの手紙は、急に去らなければならなくなり挨拶もできなかったことへの詫びと、そして、あのときのお礼として、家を一軒受け取ってほしいとの内容だった。
 家が礼品とはとんでもないような話だが、あの家の祖父母という人は、自力でサマーハウス、セーフハウスを建てたほどの人である。弓だけでなく建築の技術にも優れており、それゆえに私が思うよりも簡単に建てられるのかもしれない。
 受け取るかどうかはさておき、せっかくの申し出なのだ。見にだけでも行こうと思ったのだが、手紙の中には具体的な場所は記されていなかった。しかもどうやら、離れたところからでも感覚的に分かるような目印というものはないらしい。つまり、否応なく近くに行き、現物を見つけなければならないのである。サマーハウス探しを思い出し、私はつい苦笑してしまった。
 今度のヒントは、―――宝探しのようなつもりはないのならヒントと呼ぶのはおかしいのだが、ともかく手掛かりになりそうなのは、「トレヴァ監視塔の逆側」という言葉である。トレヴァ監視塔は、あのとき立ち寄っているため私の地図にも記されている。しかし「逆側」というのはどういうことなのだろうか。
 一番最初に思いついたのは、「対岸」という意味だ。監視塔の前には川が流れている。この逆側、ということではないだろうか。……もしかして彼女たちはタムリエルではない場所から来たのだろうか。だから細部をうまく伝えられないのかもしれない。

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 それはともあれ、川を渡ってあたりを探してみると、明らかに周囲から浮いた妙な模様の石を見つけた。
 私はスカイリムの地理に精通しているわけではないが、サマーハウス探しでこのあたりはさんざん行き来したのだ。そのときこんなものはなかったはずである。緑色のラインの走った石も、階段も見た覚えがない。とすると……?

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 間違いない。どうやらここが、アンの言う家のようだ。

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 トレヴァ監視塔の、川を挟んだ逆側、そこにある小さな岩山の上だ。素直に街道を辿れば、あの妙な石を見つけることができる。

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 綺麗な花の咲いた樹に、急所らしき場所に弓の的をつけられたクマの剥製、リバーウッドの家にもあった豊富なプランター。

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 急いで作ったのだろうか。段差がきれいに埋まっておらず軽く飛ばないと出入りができないが、鍛冶場も整えられている。完璧ではないが、通れないわけではないのだ。こまかく気にすることもないだろう。ましてや、礼品として贈られたものだ。

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 困ったのは扉に鍵がかかっていたことだが、よく見ると、ドアの脇に鍵をかけられそうなフックがある。……こんなものが外にあったのでは盗み放題な気もするが、その気になれば解錠して忍び込める盗賊にとれば、どうでもいいのかもしれない。
 フックに鍵はなかったが、もしかしてと思って足元を手探りに探してみると、案の定、一本の鍵が落ちていた。

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 家の中は、リバーウッドにあったあの家と同じだった。
 私が初めて彼等の家に入ったとき、アンはそこのテーブルに掛け、隠し切れない憂い顔をはっと上げたものだ。
 タンスの奥の隠し部屋も、そのまま作られているらしい。

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 カウンターと、その奥の主寝室、

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 寝室は相変わらず飾り気がないが、スペースを好きに飾れるとも言える。

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 2階にある子供部屋も同じだったが、どちらも個室としては十分に広い。―――そういえば、あのカジートのジェインは、二人の仲間とともに暮らせるような家を探していなかっただろうか。家の話をしたとき、たいがいの家は主寝室だけが立派で、客室や他の部屋が見劣りするのがイヤなのだと。
 ……ふむ。この家も主寝室が大きく、子供部屋はそれよりは小さいが、ベッドはどちらもカバーのかかった綺麗なものであるし、空間が多いからそれぞれが自分好みに飾り付けることもできそうである。

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 錬金、付呪の器具も備わっているし、

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 客を招いたときにはここでちょっとしたパーティくらいはできそうである。作戦室といった趣もあるが、これもまた、飾りようによっては雰囲気を大きく変えるだろう。
 もちろん、シンプルな内装がいいならあれこれ手を加える必要などない。

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 隠し部屋は相変わらず格納庫と、

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 弓の訓練室だった。
 リバーウッドの家は、突き当りから山の上に出るハシゴへと登れたが、こちらにそんな用意はない。その代わり、横手から降りていくと、岩山の中ほどに作られた、石造りの小さなポーチに出ることができた。
 目の前にあるのが賊に占拠された監視塔というのは味気ないが、川を見下ろす景色はやはりなかなかのものである。
 いささか光源が安定しないなど、急ごしらえを思わせるところはあるものの、贈り物として受け取るには過分に立派な家である。
 サマーハウス探しには苦労したものの、苦労しただけに、楽しい思い出だ。私たちはそれで満足し、ほしければ持って行ってくれと言われた弓や財産には皆、一切手を出さなかった。それがかえってアンたちには心苦しかったのかもしれない。
 立派な家だが、私はやはり、あの小さな狩人小屋でいい。いや、あの小屋がいい。であれば、まずはジェインに事情を知らせておこう。私一人ではあの探索は成功しなかったのであるから、彼等が望むならここに住んでもらえばいいだろう。
 もし彼はあのエルフ殿も不要だと感じたなら、あの律儀そうな不動産屋に教えるのが一番だ。彼ならば、こんな家を本当に求めている住民を見つけ、引きあわせてくれるように思える。
 ただ―――目印になるなにかだけは地図に書き込めるようにしてもらわないと、それが理由でなかなか住み手がつかないのではないだろうか。そのことだけが、少し気がかりである。