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3つのゴール - 「残念なもの」のアネクドート1

日常のしごとでは、多くの企画が生まれ、製品(大きいものはWEBサービスとして、 小さなものは新機能や改善として)が世に出ている。 そのなかで「残念なもの」が生まれてくることを、あまりにも多く目にしてしまう。 「残念なもの」とは、だれが、いつどこで使うのかよくわからず、使い勝手の悪い、デザインの愛されない忌み子である。 なにやら他人事のような書き方をしているが、そういう「残念なもの」をつくる経験は、他人のものだけではない。一番悲しいのは、自分がそういうものを作り出してしまったり、片棒を担いでしまう、ということだ。そう、まさに後ろの棒を持たされて、前も見えぬままに崖から落ちていくような感じである。そういうときには、私にはまるで主体性がなく、二人三脚になっていないのが最大の失敗要因である。 なぜ「残念なもの」が生まれてきてしまうのか。主体性のなさ、こそは最大の要因であるが、実は、当人に思いがあっても「残念なもの」ができてくることがある。今自分が考えられる要因について、3つの段階にわけて考えてみる。 1. 3つの重なり合う目的 企画には目的(Goal)がある。目的とは、使う人がなにをしたいのか、だ。 ゴールはシンプルだ、と主張する言説や書籍は多い。 だが、ゴールは本来、重層的なものだ。 家を買いたい。シンプルなゴールだ。 「じゃあ、不動産屋を始めるから、きてください。」 私は、彼のゴールを実現できると思ってそういってみた。 「でも」。そう、実際の人生はシンプルじゃない。 「毎日、忙しくて家を見に行く暇がないんです」。 なんと。じゃあ、不動産屋はじめても見に来てくれないじゃないか。 「じゃあ、スマホ用のサイトをつくって情報を載せておくんで、ひまなときにみて、 気になったら連絡してください。」 「わかりました。これなら通勤でもみれますね。ありがとうございます」。彼がそういってから、1ヶ月。 音沙汰がない。彼に何が起きているんだろう。事故にでもあっているのだろうか。 そっと、彼の通勤の後を追ってみた。 電車にのる。お、車内に不動産の広告が。あ、そうだ。家探さないとなー、と思ってたんだ。スマホスマホ。彼は、私が作った不動産サイトを見ようと、スマホを手に取る。 「(あ、限定キャラでてんじゃん)」 スマホのホーム画面に、某ソーシャルゲームアプリからの通知。あと1時間で敵を倒せないとせっかくのレアキャラ入手のチャンスがなくなってしまう! あれ?!不動産探すんじゃなかったの?あなたのゴールはいったいなんなの? 説教したい気分だ。でも、ストーカーの身。分を超えて説教を始めてしまっては不審者である。 彼は、そのまま、会社につくまで、ゲームにいそしんだのだった。 後日、彼に、あったとき「不動産どうでもいいの?」ってきいたら、 「いやー、忙しくて、なかなかね、探す暇ないんですよね」と。 ぜんぜん、ゲームのこと意識してないじゃん。きっと、本人も家探しとゲームだったら、家探しが大事だってわかってるから、「へー、ゲームする暇あるのに?」って思ったけれど、それをいうのは、商売人としては無粋です。 じゃあ、私も不動産アプリつくるよ。で、プッシュ通知する。 そしたら、スマホ開いたときに、ぴったりの限定物件を届けて、きっと、限定キャラよりも、 こっちに思いをむけることができる。 この小話の「彼」には、3つのゴールがある。 「家を買いたい」。どんな生き方がしたいのか。人生の目的に関わる大事なゴールだ(Life Goal)。 でも、そのゴールを妨げるさまざまなものがある。それが、日々の行動習慣やちょっとした感情だ。 「通勤時間に見たい」。日々の行動で実現したいゴール(Behavior Goal)。 「スマホを開いた瞬間から集中して見たい」。本人にしちゃ、このゴールは意識することはないだろう。無意識のゴールだ(Emotional Goal)。 マーケッターは市場調査をよくするから、Life Goalについては精通しているけれど、かれらが意気込んで作ったサービスとか素人ぽくつくったワイヤーフレームは、とても説教臭いものができる。 「本当に家がほしいんだよね?!じゃあ、いまからする100の質問、全部答えてよ!」 そんな感じ。そんなの気持ちがしぼんでしまうし、そもそも、やる時間ないよ。仕事あるんだよ。 会社内で考えていると、Behavior Goalも忘れがちだ。 「不動産は大事な買い物だからねー。パソコンでしか見ないっしょ」。 パソコンなんて、暇なソリティアおじさんが勤務中にみるもんでしょう。 俺たち営業職の人間は、出ずっぱりで見る暇ないよ、って「彼」はいうだろう。会社でパソコンみてるときに家さがすんだったら、さっさと帰るわ。 「家では、つけるのに時間かかるパソコンなんかより、ソファーに寝転がりながら、スマホでみたいわ」 会社内で、ずっとパソコン操作しながら考えている企画者は、自分も通勤のときはスマホを触っているはずなのに、大事なことをついつい軽く考えてしまうものだ。 最後のEmotional Goalは、ヒヤリングしても言葉ででてこないたぐいのものだ。 ちょっとでも、大事な情報の並びが悪かったり、通信が悪くて表示が遅かったりするだけで、いやんなったりする。でも、本人だってそんなに意識してるわけじゃないから、「なにがだめなの?」って、聞いても教えてくれないだろう。意識してたらよっぽどひどい。 このように「Life」「Behavior」「Emotional」の重層的な3つのゴールを満たさないと「彼」がやりたいことは満たせない。「へびとはしご」のボードゲームじゃないけれど、本当のゴールに到達するためには、たくさんの落とし穴をがんばってくぐり抜けて、ようやくたどり着ける。 こうして、企画として「守」るべきもの、ができる。実現したいゴールは、だれがなんといおうと、変わるべきではないもの(ただし、より、正しくことばにできるとかそういう変更はもちろんあるだろう)だ。 この3つのゴールの出典は、About Face 4より。 続きはまた次回。